2262褐色細胞腫診療マニュアル 改訂第3版
4/8

Ⅱ 臨床編102●●●はじめに 褐色細胞腫の約90%は副腎原発,約10%は交感神経節原発のパラガングリオーマ(傍神経節腫)で,副腎原発褐色細胞腫の約10%,パラガングリオーマの15~35%が非クロム親和性組織への転移をきたす悪性褐色細胞腫である.病理学的には良・悪性の鑑別は極めて困難であるため,臨床的には非クロム親和性組織への転移を認める症例を“悪性”と診断している.転移や腫瘍の増大は緩徐に進行する症例が多く,良性と診断されて手術を受けたものの数年~数十年後に転移巣がみつかる症例もある.腫瘍の残存,転移には化学療法,放射線療法などを組み合わせて多角的な治療が行われるが,確実に有効な治療法はなく,悪性褐色細胞腫は臨床的に最も診断,治療が困難な内分泌性高血圧症である.本項では自験例を参考にして化学療法の現状について述べる.悪性褐色細胞腫の治療 悪性褐色細胞腫では遠隔転移が発見されてから死亡までの経過が数十年にわたる症例が多くみられる.このため予後判定は困難であるが,根治例はごく稀であると考えられる.したがって,再発,転移を有する症例の治療目標は,いかにカテコールアミン過剰症状を抑えて循環動態を安定させることができるか,通常の生活を過ごす期間を延ばすことができるか,死因となる心不全発症を遅らせることができるか,であると考える. 死亡原因の多くはカテコールアミン過剰による不整脈や心不全であり,臨床経過や予後に慢性的なカテコールアミン過剰が大きく関与する.高カテコールアミン血症を是正する目的で各種の治療が行われる.悪性例でも全身状態が良好で,多発性の肝・肺転移,腹膜播種がなく,摘出術の標的とする腫瘍が浸潤性でなければ原発巣,転移巣の摘出術を考慮する.悪性褐色細胞腫に対する手術❶わが国で悪性褐色細胞腫に対する保険適用のある化学療法はCVD療法のみである.❷CVD療法の副作用の多くは軽~中等度であるが,褐色細胞腫クリーゼに留意する.❸これまでの報告から短期間の有効性は認められるが,効果持続は1~2年で,化学療法が生存率の改善に寄与するという根拠は得られていない.第2章 悪性褐色細胞腫――B 治療国立国際医療研究センター病院糖尿病内分泌代謝科 田辺晶代薬物療法⑤:化学療法─CVD療法を主とする─5療法は根治的ではないが,腫瘍容積の減少は高カテコールアミン血症改善に一定期間有効で,予後の改善を図ることができる.手術困難例では高カテコールアミン血症のコントロールのためα,β遮断薬を中心とした薬物療法,α-methylparatyrosine(α-MPT)内服を行う.局所の手術療法に加えて転移巣への治療として,腫瘍に対する直接的治療である化学療法,131I-MIBG治療,肝転移に対する経カテーテル肝動脈塞栓術(transcatheter hepatic arterial embolization:TAE)などを考慮する.骨転移には骨折予防,疼痛緩和のため放射線外照射を併用する.悪性褐色細胞腫に対する化学療法 1988年,Averbuchら1)は悪性褐色細胞腫が神経芽細胞腫(神経芽腫)と同じ神経原性腫瘍であることから,両者は同様の臨床的,生物学的特徴を有すると考え,神経細胞腫に対し有効性の高いシクロホスファミド(cyclophosphamide),ビンクリスチン(vincristine),ダカルバジン(dacarbazine)併用による化学療法(CVD療法)を14例の悪性褐色細胞腫に対して施行し結果を発表した.その後,それぞれ少数例ながらシスプラチンと5-フルオロウラシルの併用2),ベプシド,カルボプラチン,ビンクリスチン,シクロホスファミド,アドリアミシンの併用3),CVD療法とアントラサイクリンの併用4),テモゾロミドとサリドマイドの併用5)などが報告されている.MIBG治療との併用例も報告されているが,MIBG治療とCVD療法6)の報告では併用の確実な有効性は示されていない.神経芽細胞腫の細胞株においてシスプラチン,ドキソルビシンがMIBGの取り込みを増強させることから,MIBG治療とシスプラチン,ドキソルビシン治療7)を組み合わせて施行した報告もあるが,少数例であり効果は明らかでない.臨床医のためのPoint

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る