2271ミトコンドリア病診療マニュアル2017
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123各 論CPEO/KSSG 1868年にvon Gräfeらが進行する外眼筋麻痺の症例を報告した1).それ以降,進行性の外眼筋の麻痺による眼球運動制限と眼瞼下垂を伴う疾患を慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)もしくは進行性外眼筋麻痺(PEO)とよんでいる. 1958年にKearnsとSayreが進行性外眼筋麻痺,網膜色素変性症,心伝導障害を三徴とした2症例を報告し,後にKearns‒Sayre症候群(KSS)(OMIM #530000)と提唱した2).それ以降,他の名称を提唱するものもあった(Kearns‒Sayre‒Daroff症候群やKearns‒Shy症候群など)が,現在Kearns‒Sayre症候群が最も広く認識されている. 1967年にShyらがKSSと考えられる症例の骨格筋よりミトコンドリアの形態異常を疑い3),同年Zintzらが電子顕微鏡を用いてCPEOの3症例の骨格筋よりミトコンドリアの形態異常を報告したことにより4),CPEO/KSSはミトコンドリアの異常を有する独立した疾患単位として考えられるようになった.1988年にHoltらがCPEO/KSSを含むミトコンドリアミオパチーの症例にミトコンドリアDNA(mtDNA)の単一欠失がみられ,疾患の原因であることを報告した5). それ以降,mtDNAの変異は単一欠失だけでなく,点変異や重複,核遺伝子の変異による多重欠失など,様々な報告が今日までにみられている. KSSについてはKearnsとSayreが最初に報告した三徴(進行性外眼筋麻痺,網膜色素変性症,心伝導障害)がよく知られているが,診断基準としては1983年にRowlandらが提唱した20歳以下の発症で(当初,Rowlandらが提唱したKSSの発症年齢は15歳以下の発症との記載もみられたが,現在は20歳以下が広く用いられている),進行性外眼筋麻痺,網膜色素変性を有し,①心伝導障害,②小脳失調,③髄液蛋白の上昇(>100 mg/dL)のいずれか1つを伴うものとする診断基準が一般的である6,7). KSSの基準を一部満たさない症例を“KSS minus”や“CPEO plus”とするものもあるが,現在は外眼筋麻痺がみられるこれらの症例は広くCPEOとすることが多い8). また,特殊な病態として乳児期に鉄芽球性貧血,膵臓の外分泌不全で発症するPearson症候群は,1歳を過ぎて生存している患者では徐々に貧血が改善することが多く,その後CPEO/KSSに移行することが知られている.このため,mtDNAの単一欠失で起こるこれらCPEO,KSS,Pearson症候群をまとめてミトコンドリアDNA欠失症候群(mitochondrial DNA deletion syndromes)とする考え方もある9). また,2015年にMancusoらがmtDNAの単一大欠失を伴い,眼瞼下垂か外眼筋麻痺がみられ,網膜色素変性,小脳失調,心伝導障害,難聴,発育障害/低身長,認知機能障害,振戦,心筋症のうち少なくとも1つがみられる症例を“KSS spectrum”とし,この基準やPearson症候群の基準を満たさないmtDNAの単一大欠失を伴った眼瞼下垂か外眼筋麻痺の症例をCPEOとCPEO/KSSG第2章 各 論CPEO/KSSとはどのような疾患ですか?CQ46

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