2276ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017
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科教授,1920~2011)らは,自験例6例とそれまでの報告をまとめ,脈無し病(pulseless disease)として英文で報告した5).1965年,上田英雄(東京大学第二内科教授,1910~1993)ら6)は本症の病変は大動脈弓部だけでなく,大動脈全域に及ぶことより,脈なし病でなく大動脈炎症候群と呼称した.一方,海外ではおもに高安動脈炎として呼称されてきた.わが国の厚生労働省特定疾患臨床調査票では,長らく本疾患は,「大動脈炎症候群」,その後「大動脈炎症候群(高安動脈炎)」として記載されていたが,2015年の難病法制定に伴い「高安動脈炎」として記載されるようになった.b)巨細胞性動脈炎 1890年に英国のJonathan Hutchinson(1828~1913)が,高齢男性の両・側頭動脈の索状発赤例を報告したのが始まりである.その後,1932年にBayard Taylor Horton(1895~1980)らが側頭動脈炎(TA)として,1941年にGilmourがGCAとして報告した.本症は,Horton病,TA,GCAの三つの病名いずれも用いられていたが,CHCC2012で,本症は炎症が側頭動脈に限定されないこと,大動脈やその分枝などにも動脈炎がみられる場合があること,側頭動脈を障害しない場合もあることなどより,病理組織病名である巨細胞性動脈炎(GCA)に統一された2,7)(表1).なお,GCAは同じ大型血管炎である高安動脈炎と病変部位が類似していることなどより,「両疾患は年齢による血管や免疫系の変化により,異なった表現型をとった同じ疾患ではないか」という意見もある.今後,遺伝学的検索などより両疾患の類似性・相違性を明確にする必要がある.1.1.2 中小型血管炎疾患概念の誕生 1866年,ドイツのAdolf Kussmaul(Freiburg大学内科学教授,1822~1902)とRudolf Robert Maier(Freiburg大学病理学教授,1824~1888)らにより,初めて血管炎症例が報告された8).症例は洋服の仕立屋をしている27歳の男性が,発熱,倦怠感,下痢,咳,手指のしびれなどを呈し,1865年5月4日午前10時にドイツのFreiburg大学病院内科に入院した.しかし,症状は改善せず,呼吸困難,腹痛,全身の筋痛,蛋白尿,血尿,尿量低下を呈し,同年6月3日に死亡した.病理解剖では,消化管,心臓,腎臓などの多臓器に分布する血管の周囲に炎症細胞浸潤を伴う多数の結節を認めた.彼らは原因がわからず,当時病理学の権威であったRudolf Virchow(Berlin大学病理学教授,1821~1902)に相談したところ,梅毒の可能性を示唆された.生前の検査や剖検での検索を行ったが,梅毒を示す所見は認められず原因は不明であった.このため,1866年に「Bright病と急速進行性の全身筋力低下を伴ったこれまで記載されていない奇妙な動脈疾患(結節性動脈周囲炎)」として報告した.これが血管炎の疾患概念誕生である.a)結節性動脈周囲炎の疾患概念の変遷(図1)9) 1903年にEnrico Ferrari(1874~1970)らは,結節性動脈周囲炎では主たる炎症は動脈周囲ではなく動脈そのものであることより,結節性多発動脈炎(PAN)の呼称を提唱した.1923年,PANは,肉眼的に確認できる血管に炎症が起きる肉眼的多発動脈炎と顕微鏡でのみ血管炎を確認できる顕微鏡的多発動脈炎に分けられた.さらに,上・下気道,腎臓などに肉芽腫性血管炎を認める疾患がWegener肉芽腫症(WG)として分離され,また喘息・好酸球増加を伴う肉芽腫性血管炎としてChurg—Strauss症候群(CSS)が分離独立した.一方,わが国の川崎富作(日本赤十字社医療センター小児科,1925~)10)は小児に多く発症し,皮膚・粘膜症状とともに冠動脈炎をきたす血管炎を報告し,川崎病としてその疾患概念が確立した.b)CHCC1994 1982年,Davies DJ(St vincentʼs病院解剖病理学教授)ら1)により壊死性腎炎の患者血清中に抗好中球細胞質抗体(ANCA)が発見された.1985年オランダのFokke Johannes van der Woude(Heidelberg大学腎臓内科学教授,1953~2006)ら11)は,ANCAがWGの診断に有用なこと,血管炎の病態に関与していることを報告した.これを契機に血管炎研究は飛躍的に進展し,1994年,米国North Carolina州Chapel HillでCHCC1994が開催された.CHCC1994では,①血管炎に関する用語の定義,②各血管炎の定義,③血管径による血管炎の分類が行われた.また,顕微鏡的多発動脈炎は,動脈だけでなく静脈も障害されることより顕微鏡的多発血管炎(MPA)という病名に変更された.MPAは毛細血管をおもな障害血管とし,中型の血管も障害しうる疾患として定義された.一方,多発動脈炎は細動脈以下の血管炎や糸球体腎炎を認めないANCA陰性の中型血管炎と定義された.また,MPA,WG,CSSの3疾患はANCA関連血管炎(AAV)としてまとめられた2).このCHCC1994分類は世界中で最も用いられる血管炎分類となり,基礎・臨床研究,診療に大きな影響を与えた.c)CHCC2012 2012年,CHCC1994から18年間の医学の進歩を踏まえ,血管炎に関して病名,分類,疾患の定義などの改定作業が行われ,CHCC2012分類が2013年に発表された3).CHCC2012分類は基本的にはCHCC1994分類を踏襲しているが,①カテゴリーと疾患の追加:CHCC1994分類で記載された一次性血管炎の三つのカテゴリー(大型血管炎,中型血管炎,小型血管炎)に,表1に示すような四つのカテゴリーと疾患が追加さⅠ 総論49

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