2279内科医のための抗不安薬・抗うつ薬の使い方
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難治性うつ病に双極性うつ病が紛れている 双極性障害はしばしばうつ病で始まる.双極性うつ病に抗うつ薬を使用すると躁転したりして病像が不安定になり,治療が困難になる.初発のうつ病を長期間追跡した研究では約2割が双極性障害へ移行したという.過去に気分高揚,活動性亢進,多弁,睡眠欲求の低下などの明らかな躁病エピソードがあれば双極I型障害である.躁病エピソードが軽く持続も短い場合は双極II型障害である.軽躁病は自己親和的で病的との認識が薄いため,本人から軽躁病エピソードを訴えることはなく,家族や知人からも病歴を聴取する必要がある. 家族歴と既往歴に注目する 25歳未満の若年発症のうつ病は双極性うつ病の可能性がある.家族歴に双極性障害があるかどうかを聴取する.1年間に2回以上のうつ病エピソードがある,自殺企図の既往歴があるなども双極性障害を示唆する.過去に抗うつ薬治療を行った既往があれば,躁転のエピソードがなかったかどうかを詳細に聴取する.軽躁病の既往が確認されれば双極性うつ病と判断し,抗うつ薬は使用せず,気分安定薬を考慮する. 非定型な抑うつ症状から双極性うつ病を疑う 抑うつ状態を呈していながら,焦燥感,執拗さ,いやな考えがかけめぐる思考促迫などがみられ,過剰なエネルギーを伴う場合は双極性うつ病の可能性がある.話しながら泣き出したりする気分不安定,周囲への暴言・暴行,器物破損,自傷行為,買い物・ギャンブルなど衝動制御の悪さも双極性うつ病を示唆する.抑うつ状態のときに過眠や過食を呈する非定型うつ病や,冬季にうつ病が悪化する季節性うつ病も双極性障害へ移行することがある. 病前性格に注目する 元々明るく活発な発揚性性格,熱中しやすくこだわりの強い執着性性格,気分の波がある循環性性格などは双極性障害の可能性がある.発揚性性格の人の抑うつ状態に抗うつ薬を使用すると,落ち着かなくなることがある(抗うつ薬の賦活症候群).執着性性格の抑うつ状態は,抗うつ薬によって軽躁状態が出現することがある(躁転).循環性性格の人は,抗うつ薬によって躁とうつを頻繁に繰り返すことがある(急速交代化).第Ⅰ章 抗不安薬・抗うつ薬治療の基本双極性うつ病には抗うつ薬を使用しない18

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