2279内科医のための抗不安薬・抗うつ薬の使い方
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4 双極性うつ病には抗うつ薬を使用しない第Ⅰ章抗不安薬・抗うつ薬治療の基本 双極性障害には気分安定薬を用いる 双極性障害の初期に気分安定薬の炭酸リチウムを使用すると良好な反応が得られ,衝動性や攻撃性にも効果があり,自殺リスクを低下させるというエビデンスがある.リチウムに反応しない場合は,バルプロ酸,カルバマゼピン,ラモトリギンなどの気分安定作用をもつ抗てんかん薬を使用する.これらの気分安定薬は即効性がないため,急性期には非定型抗精神病薬を併用することがある.  ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ  ◇主訴・経過 ゲーテ(1749-1832)は16歳の時,最初の躁状態が生じた.ケーチヒェンに恋したが成就せず,その後うつ状態を呈した.21歳のとき再び躁状態となり,シャルロッテとの恋愛を契機に「若きウエルテルの悩み」を書いた.30歳の躁状態ではシュタイン夫人に恋し,その体験に基づいて「ウイルヘルム・マイスター」や「タッソー」を執筆した.36歳の時にはうつ状態を呈してイタリアへの失踪事件を起こした.37歳のときには4回目の躁状態を呈し,華々しい恋愛を契機に幾多の作品が生まれた.39歳からおよそ20年近くも安定した壮年時代があったが,皮肉なことにこの健康な時期には傑作は生まれていない.57歳の時に5回目の躁状態を呈してからは,きっちり7年周期で躁状態がみられ,80歳の最後の躁状態のときにはさすがに恋愛沙汰はなかったが「ファウスト」や「詩と真実」を完成させた.82歳で波乱の生涯を閉じた. ゲーテは18世紀前半のドイツ「疾風怒濤」文学の旗手であり,詩作,叙事詩,芸術,自然科学など幅広く活躍し,枢密院顧問官(大臣)として多忙な公務生活を送った時期もある.ゲーテの文学は実在の人物をモデルにして現実に密着しており,読者の共感に支えられて不滅の名声を維持し,現在なお読み継がれている.◇処方例 現在であれば炭酸リチウムの適応と考えられる.◇コメント ゲーテには計8回の躁うつの波があり,躁状態の時期に旺盛な創造性を発揮した.彩り豊かな女性関係もみられたが,それぞれの女性に相応の配慮をしている.唯一フリーデリーケには不誠実に接したが,そのため罪の意識を抱き続け,後年に「ファウスト」の理想の女性グレートヒェンとして描いている.ゲーテには際立った逸脱行動はなく,躁状態でなく軽躁状態であったと思われ,双極Ⅱ型障害と考えられる.双極性障害の人は創造的な仕事に従事する Kyagaらは,スウェーデンの縦断的登記簿に基づき,双極性障害の人々とその健常な同胞は創造的な職業により多く就いていたことを報告した.創造的職業に就く傾向は第一度親族で最も高率で,患者から血縁が離れるにつれて徐々に低下した.IQの差ではこれを説明できなかった.さらに対象を拡大し,過去数十年間のスウェーデン人口をほとんど網羅して,創造性がほかの精神疾患とも関連するのかについて調べた.その結果,ダンサーや研究者,写真家や作家など,芸術的な職業や科学分野の専門職など,クリエイティブな職業に就いている人全体では,双極性障害のみが有意に多く,ほかの精神疾患ではそのようなことはなかった.なお,作家については,うつ病,不安症,物質乱用など,ほかの精神疾患の有病率も高かったという(Kyaga et al, Br J Psychiatry 199: 373-379, 2011; J Psychitr Research 47: 83-90, 2012).memo19

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