2283女性内分泌クリニカルクエスチョン90
3/10

Q1 思春期発来のメカニズムは? 31思春期細胞でKiSS-1 mRNAの発現が亢進し,増加したkisspeptinがKISS1Rとの結合を介してGnRHのパルス状分泌を促進する結果,ゴナドトロピン分泌が亢進して思春期が発来すると推測されている1).思春期はGnRHニューロンがkisspeptinに対する反応性を獲得することにより発来するとの報告がある2).Kisspeptinニューロンはエストロゲンα受容体を発現しており,GnRH分泌におけるエストロゲンfeedbackはkisspeptinニューロンを介するものと考えられている.卵胞発育の途中まではエストロゲンによる負のfeedbackがかかりゴナドトロピン分泌は抑制されているが(図1)3),卵胞が成熟してエストロゲン分泌が高まると正のfeedbackに切り替わりLHサージが起こって(図2)3)排卵に向かう.この正負のfeedback転換も,中枢における担当部位の違いで説明されている. Kisspeptinニューロンにはプロラクチン受容体も発現しており,高プロラクチン血症による排卵障害もkisspeptinを介している可能性が示唆されている.Kisspeptinを取り巻く因子 近年,kisspeptinニューロンに存在するneurokinin B,dynorphin Aがkisspeptinと協同的にGnRHニューロンに作用し,GnRHパルス産生を調節しているとの報告がなされ4),GnRHニューロンに対する様々な神経性・体液性入力の変化,さらにそれらに対するGnRHニューロンの反応性の変化が思春期発来に関与する,という考え方も提唱されている.インスリン抵抗性が思春期発来に関与するとの報告や,makorin RING finger protein 3(MKRN3)遺伝子が中枢性早発思春期の発症に関与するという報告もみられる5).しかしながらこれらはいずれも思春期前後にみられる現象を記述しているにすぎず,その変化が起こる機序そのものについては明らかでない.文献 1) Shahab M,et al:Proc Natl Acad Sci USA 2005;102:2129-2134. 2) Lippincott MF,et al:J Clin Endocrinol Metab 2016;101:3061-3069. 3) 綾部琢哉:基礎からわかる女性内分泌.診断と治療社,2016;p128. 4) Wakabayashi Y,et al:J Neurosci 2010;30:3124-3132. 5) Abreu AP,et al:N Engl J Med 2013;368:2467-2475.(綾部琢哉)図1エストロゲンによる負のfeedback〔綾部琢哉:基礎からわかる女性内分泌.診断と治療社,2016;p128より引用〕前腹側室周囲核kisspeptinニューロンEαR正中隆起下垂体卵巣GnRHゴナドトロピン視床下部弓状核GnRHニューロンkisspeptinニューロンEαR視索前野エストロゲン図2エストロゲンによる正のfeedback〔綾部琢哉:基礎からわかる女性内分泌.診断と治療社,2016;p128より引用〕前腹側室周囲核kisspeptinニューロンEαR視索前野正中隆起下垂体卵巣GnRHLHサージエストロゲン視床下部弓状核GnRHニューロンkisspeptinニューロンEαR卵胞

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る