2287骨関節画像診断入門 第4版
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人が「どうして君は,あの症例でそんなにたくさんの鑑別診断を挙げることができたんだい?」と尋ねてきた。というのは,そのカンファレンスを担当していた放射線科医(彼は胸部画像診断が専門だった)もそんなに多くの鑑別診断を挙げることができなかったからだ。著者は「論理的に考えれば,あれくらいの疾患が考えられると思ったのさ」と平然と答えた。それが本当のように見せかけるのに必死であったが,ついに笑いを堪えることができなくなり,例の簡単な記憶法のことを教えてあげたうえで,そのおかげでたまたま実際よりも自分が賢く見えたことを話した。みんなはそれを聞いてほっとし,さっそく自分たちもその記憶法を覚えたのだった。その日以来,著者はどうしようもなく記憶術にのめりこんでしまったのである。FEGNOMASHlCFEGNOMASHICについてFunkandWagnallの辞書(第13版)には「記憶術を使用する人のこと」とある。これは,良性溶骨性病変の鑑別診断について学ぶための出発点として大変ふさわしい言葉である。この記憶術は長年にわたり広く用いられているが,誰が考え出したものかは不明である。著者が書物の中で最初の記載を見たのは1972年で,Gold,Ross,Margulisの放射線医学の参考書であった1。これ自体は14もの疾患を並べた長いリストなので,個々の症例では他の診断基準と組み合わせて診断を絞り込む必要がある。たとえば,病変が骨端にあることがわかったら,鑑別診断は3〜5疾患に狭めることができる。また病変が多発しているならば,わずか6つの疾患のみが鑑別対象となる。鑑別診断を絞り込む方法は後述する。すべての疾患名を記憶したら,次にそれぞれの疾患がどのように見えるかを知る必要がある。これに関しては経験がものをいう。1年目のレジデントや学生は,溶骨性ないし泡状で良性らしい病変を見つけても,さらに次の所見を述べるとなると難しい。ところが4年目のレジデントともなると過去に何度も症例を経験していて,それらがどのように見えるかをよく知っているので,単房性骨嚢腫と巨細胞腫瘍の鑑別などはわけなくできる。たとえ言葉でそれらの違いをうまく表現できなくとも,区別することはできるはずである。初心者は,骨放射線診断の成書で症例をたくさん見れば,手っとり早く経験できる。本書を読んだ後は,他の教科書で多くの症例にあたって本書の記載や鑑別点を確かめてみてほしい。これらの疾患のなかには,パターン認識でしか診断できないものもある。言い換えれば,それらの疾患には鑑別のためのしっかりした診断基準がないのである。それぞれの病変がX線上どのように見えるかという感じをつかみ,さらにどの病変も同じように見えてしまうという状態を克服したら,今度はそれぞれの疾患を鑑別する方法を学ばなければならない。著者自身は“鑑別点”と呼ぶ個々の疾患を鑑別するのに有用なキーポイントを考案している。これらの鑑別点は90〜95%で役に立つが,決して絶対的なものではない。これらは単なるガイドラインに過ぎないが,信頼できるものである。普通の教科書では「常に……である」とか「絶対に……でない」といった表現はめったに使われない。それらは「通常は……である」とか「実際上は……である」とか「……に特徴的である」といった表現に和らげられている。著者の場合,まあ95%程度は正しいだろうと自分で判断したことを,「必ず……である」という所見として選び出している。著者にとってはそれで十分であるが,読者にとってそれが十分でないならば,読者自身の鑑別基準を考えなければならない。そういう基準を自分自身で作り,それが本当に役に立つものかどうか確かめるのが一番である。もし,それが役に立たないようなら改良すればよい。しかし,どういう鑑別基準を作ったにしろ,どうしてそうしたのか理由をはっきりさせておくことは大切である。すなわち,どうしてその疾患が考えられるのか,あるいはどうして除外できるのかという診断基準を明確にしておかなければならないのだ。92.良性溶骨性病変

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