2288小児・成育循環器学
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2a.解剖■心血管系の解剖学 胸腔内における心臓および大動脈,大静脈の位置関係について図1に示す.空間的な把握を正確にしておくことは重要である.特に若い循環器小児科医には正常心と各種心疾患について絵をかく習慣を付けることをすすめたい.二次元で表現しきれない疾患もあるものの,繰り返し絵をかいてみることで自分の立体把握の曖昧なところに気付かされることが多い.このような空間認識を意識しながら心血管系および関係諸器官を順番に観察していく.❶心臓の位置と外形 胸腔における心臓の位置は心尖部の向きから左胸心,右胸心,正中心の3種類にわけられる.心尖部の向きだけでは心内構造までは判別できないが,正中心や右胸心をみた場合,発生の途中でなんらかの心回転異常が起こった可能性があり,心房内臓錯位や修正大血管転位などの疾患が鑑別診断となる.正常心では,前面に存在して心尖部の2/3を占めるのが右室である.左前下行枝(LAD)の走行をみれば,中隔の位置がわかり,それより左後方に存在して心尖部の1/3を形成するのが左室である.各心室の拡大や低形成によって前下行枝の走行場所は変化するため,心臓の外表面をみただけで心室の大きさのバランスはおおまかに把握可能である(図2).三尖弁閉鎖などの右室が低形成な疾患では外表面の観察のみで疑うことができる場合もある.心房は心耳の形態で左右を判断できる.それぞれの特徴については後述する.心耳並列(左右どちらでも起こりうる)がないかをよく観察する.特にD型大血管転位を伴う三尖弁閉鎖では心耳並列がしばしば認められる(40%).図3に示す標本は心房をすべて取り去ったもので,左右の流入路と流出路の関係がよく理解できる.大動脈と僧帽弁は直線的で近い位置にあり,線維性に連絡しているのに対して,三尖弁と肺動脈弁は離れた位置で,線維性連絡が絶たれている1,2).❷体静脈と肺静脈 心臓の位置,心尖部,心耳を観察した後,体静脈と肺静脈の観察を行う.正常心では右上大静脈が右肺動脈の前方を通って右房に還流する.左上半身からの静脈還流は通常無名静脈を介してなされ,腕頭動脈の前面を通って上大静脈につらなっている.左上大静脈を伴う疾患がときにみられるが,左房に還流する場合と冠静脈洞(CS)に流入する場合がある.この場合,左右の上大静脈をつなぐ架橋静脈が存在することとしないことがある.いずれも治療を考えるうえで重要な情報である.下大静脈はほぼ例外なく右房に還流するが,下大静脈が冠静脈洞左房交通症と結合する場合や一次中隔との角度によっては左房に還流しているようにみえる症例がある.あるいは後述するEustachian弁を一次中隔と誤認して左房に還流すると判断されてしまう症例もあるので注意が必要である3).また,肝静脈流入部より上部を確認しただけでは正常な還流をしているかどうかの判断はできない.肝静脈下部で奇静脈に乗り換えて上大静脈に還流する症例があり(特に多脾症),左を上行して肝静脈流入直前で右に旋回するなど様々な走行のバリエーションがある. 肺静脈の観察では,右肺静脈は右肺動脈の下で心房中隔に近い場所に還流し,左肺静脈は左肺動脈の下をくぐるように還流することを確認する.上下左右で4か所の入口部から還流することもあれば,直前に上下が合流して左右それぞれ1か所ずつで還流する場合など様々なパターンがありうる.4か所で左房に還流していても,さらに1本が体静脈や右房に合流する症例があるので,部分肺静脈還流異常(PAPVR)の診断において同症を否定するには4本の肺静脈の正常還流のみで決定してはならず,異常な肺静脈の還流がないことを証明する必要がある.正常心血管系の解剖学的特徴と各部分の定義を知り,豊富な形態学的バリエーションの知識を身に付けることが,CHDの診断への第一歩である.CHDの診断における基本的アプローチとしての区分診断法を理解する.構造心血管系の構造,発生と生理学1A

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