2288小児・成育循環器学
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363概 説●疾患の概要(疫学・病態生理)❶疫学 心房中隔欠損(ASD)は出生1,000人に1人認められ,全先天性心疾患(CHD)のおよそ10%を占める.男女比は,二次孔欠損で1:2と女性に多いが,静脈洞欠損では1:1である.❷発生・病理・分子遺伝学 心房中隔は一次中隔と二次中隔の2枚の膜から形成される.一次中隔は下方に伸びて心内膜床と接着し一次孔を閉鎖する一方,一次中隔の後上方部分が吸収され二次孔が形成される.二次中隔は一次中隔の右房側の屋根部分から発生し,心内膜床の方向に向かって伸展し二次孔を閉鎖するが,壁は完全でなく卵円窩が残る.生後しばらくは一次中隔と二次中隔の2枚の間に隙間が残り,この隙間を通って卵円窩から二次孔へつながる交通路が卵円孔である. 一次孔欠損(20%)は心内膜床につながる一次中隔の一部の欠損であり,不完全型房室中隔欠損と同義である.二次孔欠損(75%)は二次中隔の一部の欠損であり,心房中隔の中心付近にあって少なくとも一部卵円窩を含む.静脈洞欠損(5%)は静脈洞の右房への不完全な吸収から生じ,上大静脈(上位静脈洞欠損)または下大静脈(下位静脈洞欠損)付近にある.つまり心房中隔そのものの欠損ではなく卵円窩を含まない(図1).静脈洞欠損にはしばしば右肺静脈が右房へ異常還流する部分肺静脈還流異常(PAPVR)を合併する.冠静脈洞欠損は冠静脈洞と左房の間の隔壁形成が不完全なために生じ,単独でみられることはまれ(<1%)で,多くは内臓錯位症候群や体静脈の還流異常に伴う. ASDは多くの染色体異常や奇形症候群の心合併症として認められる.家族性ASDでは転写因子をコードする遺伝子NKX2.5やTBX5,GATA4の変異が報告されている.NKX2.5の変異では房室伝導障害を,TBX5の変異によるHolt‒Oram症候群では房室伝導障害と橈骨欠損など上肢の異常を伴う.❸病態生理 欠損孔を介する短絡量と短絡方向は,欠損孔の大きさと左右心房間の圧較差,左右心室のコンプライアンスの差,肺血管抵抗により影響をうけるが,特に両心室コンプライアンスの変化が重要心房中隔欠損先天性心疾患1C心房中隔の欠損孔を介して短絡が生じる疾患で,短絡量は主に欠損孔の大きさと左右心室のコンプライアンスで規定される.小児期にはほとんどの例が無症状であり,小児期に肺高血圧を合併することはまれである.多くの例でカテーテル治療が可能であるが,手術治療にはない特異的な合併症があることから,適応を慎重に検討して実施する必要がある.図1 ASDの病型ASD:心房中隔欠損.静脈洞欠損(上位型)二次孔欠損一次孔欠損静脈洞欠損(下位型)本来の心房中隔冠静脈洞欠損

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