2295原発性免疫不全症候群診療の手引き
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N‒Rasの異常であり,GTP結合蛋白などを介したミトコンドリアのアポトーシスの障害が起きる.ALPS6はFADDの異常である.FADDはFASと結合するアダプター分子であり,アポトーシス,炎症,自然免疫に関与している. APECED(APS‒1)は,自己免疫性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉異形成症をきたす疾患であり,その責任遺伝子は転写因子AIREである.AIREは胸腺上皮における末梢臓器特異抗原の発現に関わり,胸腺における自己抗原への免疫寛容に関わっている. IPEX(Immune dysregulation polyendocrinopathy enteropathy;X‒linked)は,FOXP3の変異により制御性T細胞の発生障害から,末梢性免疫寛容の破綻をきたす疾患であり,サイトカイン産生異常などにより様々な自己免疫症状を呈する. IL‒10欠損症,IL‒10レセプター〔α,β〕欠損症は腸炎を伴う免疫不全症を発症する.Table 5:先天性食細胞機能不全症および欠損症 好中球を中心とする食細胞の機能や数に先天的な欠陥があり,易感染性を示す免疫不全症である.生後間もなくから臍炎,肛門周囲膿症,中耳炎,リンパ節炎,肝膿瘍,骨髄炎,敗血症など細菌感染を繰り返し,抗菌薬に対する反応も不良である.臍帯脱落遅延を起こすこともある.重症先天性好中球減少症(SCN),周期性好中球減少症(CyN),慢性肉芽腫症(CGD),白血球粘着異常症(LAD),GATA2欠損症 などが知られている. CGDは活性酵素産生能の障害による疾患である.活性酸素産生酵素の構成分子であるgp91phox(CYBB),p22phox(CYBA),p47phox(NCF1),p67phox(NCF2),p40phox(NCF4)の異常が原因で,この5亜型に分類される. 好中球の血管外遊走能に障害のあるLADはⅠ型(CD18分子の変異),Ⅱ型(Sialyl Lewisx分子の異常),Ⅲ型(KINDLIN3異常)に分類される. SCNは,SCN1はELA2(ELANE)欠損,SCN2はGFI 1欠損,SCN3はKostmann病であり,好中球と神経細胞のアポトーシスに関わるHAX1欠損である.SCN4はG6PC3欠損,SCN5はVPS45欠損である.CNは,周期的に好中球が減少する.Table 6:自然免疫異常 免疫系には獲得免疫と自然免疫がある.自然免疫の障害がある免疫不全症がこの分類に含まれる.自然免疫の障害により炎症を起こしにくく,肺炎球菌に対する易感染性,単純ヘルペスウイルス脳炎に罹患しやすい,皮膚粘膜においてカンジダにかかりやすい,抗酸菌に易感染性がある,HPVに易感染性があるなどの症状が出現する. 代表的なものとして,自然免疫において病原体を認識するToll‒like receptorのシグナル伝達に関わる分子であるIRAK4欠損症,MyD88欠損症,ヘルペス脳炎(Herpes simplex encephalitis;HSE)に罹患しやすい免疫不全症であるTLR3欠損症,UNC93B1欠損症,TRAF3欠損症,慢性皮膚粘膜カンジダ症(Chronic mucocutaneous candidiasis;CMCD)を引き起こすIL‒17RA欠損症,IL‒17RF欠損症,IL17F欠損症,STAT1の活性化変異,RORC欠損症などがある. また抗酸菌に易感染性を呈する免疫不全症(メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(Mendelian susceptibility to mcobacterial disease;MSMD)としてIL12欠損症,IL12レセプター欠損症,IFN‒γレセプター欠損症,STAT1欠損症などがある.RORC欠損症はMSMDの表現型もとる. ヒトパピローマウイルス(HPV)に対する易感染性を呈する疾患として,EVER1/2欠損症,WHIMがある.Table 7:自己炎症性疾患 本疾患については,自己炎症疾患研究班があるため,本書では割愛した.Table 8:補体欠損症 補体系蛋白の欠損による先天性補体欠損症である.補体は,細菌感染においてオプソニン効果の補助,好中球の走化や,Membrane attack complex(MAC)によるグラム陰性桿菌の溶菌に関与している.したがって,補体欠損により化膿菌や,グラム陰性桿菌特に髄膜炎菌などのナイセリア菌に対する易感染性を示す. 補体には免疫複合体を溶解する作用もあり,補体欠損は免疫複合体病の発症リスクになる.SLE,リウマチ様疾患,特発性血小板減少症,血5原発性免疫不全症候群(PID):総論序章原発性免疫不全症候群

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