2305ハイパーサーミア
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C.臨床篇 ハイパーサーミアと放射線療法・化学療法との併用療法30 ハイパーサーミアの癌治療における生物学的な有効性 癌の治療としての温熱療法“ハイパーサーミア”は,1960年代に培養細胞を用いた温熱の細胞致死効果が確認されて以降,前述した通り本格的な研究が進んだ.多くの基礎研究がなされ,ハイパーサーミアの癌治療における生物学的な有効性の根拠をまとめると以下のようになる. ①42~43℃の加温により,加温時間とともに細胞の生存率が低下する.この現象は多くの癌細胞に共通してみられ,温熱感受性は癌の組織型にあまり左右されないと考えられている. ②正常組織の血管は,加温されると恒常性を保とうとする.すなわち,血管が拡張し血流を増やすことで加温された組織を血液で冷却しようとする.一方,腫瘍組織の血管は新生血管であるため,正常組織の血管のような反応をする機能が欠落しており,血流は増加せず血液による冷却効果が働かない.したがって,腫瘍組織のほうが正常組織より加温されやすい. ③低酸素細胞のほうが高酸素細胞より温熱に弱い.腫瘍組織は正常組織と比べると血流量が少ないため,低酸素,低栄養に陥っている. ④癌細胞は低酸素状態のため,嫌気性解糖系が亢進しミトコンドリアでの酸化的リン酸化は抑制されている.しかも興味深いことに,癌細胞では酸素が十分にある状態でもミトコンドリアでの酸素を使ったエネルギー産生は行わない.酸素があってもなくても酸素を使わない嫌気性解糖系でエネルギー産生を行い,そのためにグルコースの取り込みが正常細胞の何倍も何十倍も高くなる.嫌気性解糖系でのグルコースの代謝によって乳酸が増えると,腫瘍組織が酸性になる.酸性になるほど,癌細胞は温熱に弱くなる(図19). ⑤放射線あるいは抗癌剤などでDNA鎖が切断,欠損した場合の初期段階には,DNA鎖修復にかかわる多くの酵素が誘導されるが,温熱はこのDNA鎖修復酵素の誘導を抑制することで,放射線あるいは抗癌剤の感受性を増強する. ⑥放射線と温熱に対する細胞周期の感受性の時期が異なるため,この両者を併用するとどの細胞周期にいる癌細胞にも傷害を与えることができる(図84)参照). ⑦ハイパーサーミアは,化学療法で活性化される転写因子NF‒κB(図20,図6参照)の活性化を抑制する.その結果,化学療法剤の癌細胞に対する抵抗性の発現を抑えることができる(図21,図22). ⑧温熱処理は,癌細胞のEMTを抑えることが可能である(図95)参照).この作用のため,ハイパーサーミアにより癌の転移・浸潤は抑制される. ⑨ハイパーサーミアは生体の免疫機能を亢進させる.また,癌による免疫逃避システムの一部を破壊し,正常な免疫機能を再構築することも知られている.併用療法のメリット1•ハイパーサーミア単独ではあまり効果は期待できない.•放射線療法,化学療法,免疫療法と併用することで相乗効果が得られる.Point !

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