2305ハイパーサーミア
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ix各領域の先生方に理解していただきたいハイパーサーミアという癌治療 ~患者からハイパーサーミアの併用を希望されたあなたに読んでいただきたい~ 19世紀後半,William Coley(ウィリアム・コーリー)という外科医は癌患者の何人かが,今日「化膿連鎖球菌」として知られる丹毒に感染し,高熱を出したのちに,腫瘍が消失したことに気がついた.このことに興味をもった彼は,同様の症例が過去に記録されていないかを調べたところ,複数の症例が報告されていることを発見した.その後,コーリーは,咽頭癌の患者に丹毒を意図的に感染させる治療を行い,癌の縮小と延命を経験している.そしてコーリーは,死んだ化膿連鎖球菌とセラチア菌の混合物をコーリーワクチンとして,1893年1月24日に腹部腫瘍をもつ16歳の少年に投与した.数日間毎日,コーリーワクチンを打ち続けた.そうすると,腫瘍は徐々に縮小し,1893年8月には腫瘍はほとんど消失した.その後,この少年は,他の抗癌剤治療を受けることなく,26年後に心臓発作で亡くなるまで,健康に過ごした.1934年にはアメリカの医学会で癌の全身ハイパーサーミアとして知られるようになった.このコーリーワクチンは,現在,ある製薬会社が製品化を計画している. 現在,ハイパーサーミア(温熱療法)は放射線療法や化学療法との併用により相乗的な効果が期待される治療法である.臨床試験では温熱療法と放射線療法の組合せによって,放射線療法単独よりも明らかに高い局所制御率が得られたとの報告が多数認められる.また化学放射線療法に温熱療法を併用することで,有意に生存期間が延長したことを示す報告も多数ある.わが国においてハイパーサーミアは,1990年4月に放射線療法との併用で保険適用となった.その後,1996年には化学療法との併用およびハイパーサーミア単独治療も保険収載された.しかし,ハイパーサーミアは,加温装置が高価なこと,一人の患者の治療に時間と人手がかかるわりには診療報酬点数が低すぎることから,その普及に支障をきたしているのが実情である. ハイパーサーミアの有用性については臨床家以外に多くの生物学者,基礎医学者が認めているが,前述の通り,実際の臨床使用になるとマンパワーを要することなどから,ハイパーサーミアを導入する医療機関はそれほど増えていない.その一方でハイパーサーミアの抗癌治療効果に期待をする患者は近年増加の一途をたどり,治療を順番待ちされている患者で溢れているという現状がある. このような患者たちの多くは主治医のところで標準化学療法を施行されており,その化学療法に併用してハイパーサーミアを希望され,ハイパーサーミア実施施設に来院される.そこで治療枠をうまく調節して抗癌剤治療とハイパーサーミアの併用療法が開始されることになるわけだが,その際に化学療法を行っておられる主治医の先生からハイパーサーミアを併用することへの理解が得られないことが多々ある.本書ではハイパーサーミアの有効性を基礎的研究および臨床試験の結果をもとに解説する.本書によりハイパーサーミアについてご理解いただくと同時に,併用療法を積極的に進めていただければ患者のためになると信じている. 2017年6月 京都学園大学健康医療学部 教授 古倉 聡序

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