2305ハイパーサーミア
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1.癌細胞内分子への障害3A基礎篇1 なぜ,ハイパーサーミアは癌に効くのか? 核酸の熱変性 核酸には,DNAとRNAがある.DNA鎖は相補的な塩基による水素結合を介して全体として二重螺旋構造を取り,片方が鋳型となりDNAの複製を容易に行うことができるため,遺伝情報を伝えていくうえで決定的に重要な要素である.この2本鎖DNAは塩基同士の水素結合が高温に曝されると破壊され,1本鎖になることが明らかにされている.これをDNAの熱変性といい,一定の温度で急激に起こるため融解ともよばれ,逆に融解した核酸の温度を下げて再結合させることをアニーリングとよぶ.しかしDNA鎖の水素結合は密に存在しているため,その結合の破壊はハイパーサーミアで用いられるような42~43℃程度の温度領域ではほとんど起こらないと考えられていた. 一方,温熱に曝されるとラジカルを介して脱アミノ化,塩基の遊離などの損傷を受けることが報告されているが,ハイパーサーミアで用いられるような温度領域でDNA鎖の切断が検出されてきたものの,その生成量は放射線と比較すると非常に低いレベルでプラトーに達することから,DNA鎖の切断が生成することは重要視されていなかった.ところが高橋らが,高感度にDNA2本鎖切断(double strand break:DSB)を検出する方法を確立し,その方法により温熱によるDNA2本鎖切断が生じることを明らかにした1). 現在のところいずれの分子損傷が温熱による細胞死を決定しているのかは不明だが,今後のさらなる研究によりハイパーサーミアの殺細胞作用の分子レベルでの理解がより深まることが期待されている. 加温によるタンパク質の変性図3加温 ハイパーサーミア細胞内標的図2タンパク質立体構造の変化タンパク質の凝集脂質DNA過酸化脂質2本鎖切断ハイパーサーミアラジカル

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