2316臨床遺伝学テキストノート
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ix2臨床遺伝学テキストノート[別冊付録1] ―臨床遺伝学を学ぶための基礎知識―1遺伝子の 構造と機能遺伝子の構造遺伝子の化学構造の主体はDNA(デオキシリボ核酸deoxyribonucleic acid)である.DNAは,対をなすピリミジン塩基とプリン塩基が結合した,1対の糖とリン酸からなるヌクレオチド鎖でできている(図1).糖はデオキシリボース(リボースの2番炭素〈2’〉につく酸素原子が1つとれたもの)である.それぞれのDNAのヌクレオチド鎖は,デオキシリボースの5番炭素(5’)と,次のデオキシリボースの3番炭素(3’)がホスホジエチル結合によって結合したものがつながった形である.2本のヌクレオチド鎖は,アデニン(A)とチミン(T),もしくはグアニン(G)とシトシン(C)の間で水素結合をしているため,この2本のヌクレオチド鎖はともに1つの右巻き二重らせんをつくる.それぞれのヌクレオチド鎖は並行ではなく,逆向き並行につながる.すなわち,片方のヌクレオチド鎖が5’から3’に伸びる場合,これに結合するもう片方のヌクレオチド鎖は3’から5’に伸びる形となる(図2).DNAはA,T,G,Cの4種類からなる塩基の配列により遺伝情報を担う.塩基間の水素結合は,A-T間は2つ,G-C間は3つであるために,熱力学的にはG-C対のほうがやや安定である.また,塩基対は常にプリン塩基とピリミジン塩基との結合となるために,二重らせんを形成する二本鎖の距離は一定である(図2).染色体とDNAヒトのDNAは,細胞核にある46本の染色体とミトコンドリアゲノムに存在する.ヒト染色体はそれぞれが1本の連続したDNAを含んでいる.すなわち核ゲノムは46のDNA分子から構成されていることになる.染色体のそれぞれのDNA分子は,おもな染色体タンパク質であるヒストンや,複数の非ヒストンタンパク質と複合体を作り,クロマチンという構造中に存在する.染色体DNAは,ヒストンの8量体を中心にその周囲をDNAが巻きつく形で最初のソレノイド構造(ヌクレオソーム)をつくり,そのヌクレオソームがさらにソレノイド構造をつくる.そしてこのソレノイドはさらに高次のループ構造をとる.このループは,約10万塩基対ごとに核内にある骨格タンパク質あるいは核マトリクスに付着することで形成される.これらのループは実際にDNA複製や遺伝子の転写などの機能にかかわる単位と考えられており,各ループが付着する位置は染色体DNAにより決まっている(図2).DNAの複製DNAの複製は,二重らせんが局所的にほどかれ,それぞれのヌクレオチド鎖が新しいヌクレオチド鎖複製のための鋳型となる.上述のように,AとT,GとCがそれぞれ水素結合をするペアであることから,一方のヌクレオチド鎖にAがあれば伸長鎖の対応する塩基はTとなり,GがあればCとなる.これらの塩基は水素結合によって新しく合成されたヌクレオチド鎖に並んで結合し,酵素DNAポリメラーゼによって新しいホスホジエチル結合が伸長鎖のヌクレオチド鎖につくられていく.図1 DNAボリヌクレオチド鎖の一部アデニン(A)シトシン(C)グアニン(G)チミン(T)ホスホジエステル結合末端末端NNNNHHHHOONNNNNHHHHONOONNNHHHHONH3CHHPOOOOCH2OPOOOCH2OOPOOOCH2OOOPOOOCH2Ó5́5́5́3́3́3́3́3́5́5268Ⅰ Basic篇縞模様のパターンで見分ける職人技 ヒト染色体は全身にある細胞の核の中にあり,塩基性色素によく染まることから染色体(chromosome)と名づけられた.chromo-は色のついたという意味からきている(そういえば昔Kodakの写真用フィルムにコダクロームとかエクタクロームとかクロームがついた商品があった).染色体は末梢血白血球を染める普通のGギムザiemsa染色でも染まり1本1本の長さや短腕と長腕にあるセントロメアの位置がわかるが,縞模様や特定の箇所を染め分けて,そのパターンの違いによって細かく解析する分染法が臨床現場では広く実施される. 分染法は,用いる試薬や酵素の違いでいくつかの方法がある.最も一般に行われ,まずオーダーすべきなのがG分染法である.これはトリプシン,Giemsa染色液を用い,濃染バンドの箇所はA-T対が豊富で遺伝子密度が低い.キナクリンマスタードを用いるQ分染法はG分染法とパターンが似ており,Y染色体遠位部が強い蛍光を放つ.R分染法はG,Q分染法とはパターンが反転し,染色体末端部の構造異常の検出にすぐれている.C分染法は水酸化バリウムを用いヘテロクロマチン領域の検出に,NOR分染法は硝酸銀を用い付随体(サテライト)領域の検出にすぐれる.ほかに姉妹染色分体分染法は染色体不安定症候群の1つであるBブルームloom症候群の診断に有用である.また高精度分染法では分裂前期や前中期の細長い染色体を用いバンド数が多く観察される. 染色体検査は,どの疾患に利用するかによって大きく2つに分けられる.遺伝子関連検査のうちヒトに関するものが体細胞遺伝子検査と遺伝学的検査に分けられるように,染色体検査のサンプル(検体)として末梢血リンパ球を用いる場合,先天性染色体異常など遺伝学的検査に相当し,細胞分裂促進因子(マイトジェン)を培養液に添加する.一方,がんなどの体細胞を用いる場合は,体細胞遺伝子検査に相当し細胞分裂促進因子は添加しない.どちらにせよ,細胞培養した後に解析することになる.培養後多くはコルセミド(コルヒチン)により細胞分裂中期でストップさせたものを染色し顕微鏡で観察し写真撮影をする.写真撮影した画像をプリントアウトし,ハサミで1本ずつ染色体を切って並べていくという知識と技術はまさに職人技である.この一見原始的な作業を最近ではコンピュータ画像上でのソフトウェア処理が補完してくれる. 染色体検査は医療における臨床検査の1つとして保険収載されている.また染色体検査は網羅的遺伝子解析であるため,偶発的所見・二次的所見が発生し得る. 梶井 正先生が作成したホームページが日本人類遺伝学会によって管理されており非常に参考になる(http://www.cytogen.jp/index/index.html). (中山智祥)コラム4染色体分染法       Note19第1講義常染色体劣性遺伝(AR)第1講義常染色体劣性遺伝(A‌R)セルフアセスメント第1子が新生児期発症のメチルマロン酸血症で日齢15で死亡している.尿有機酸分析で診断し,遺伝子解析は実施していない.両親が次児を希望して遺伝カウセリングに訪れた.妊娠はしていない.この両親にどのような説明・提案ができるか,出生前と出生後に分けて考えてみよう.第1子(男児)が5歳時の肺炎罹患時に偶然肝逸脱酵素の上昇が指摘された.経過観察されるが半年以上持続するため,精査が行われ,生化学的,組織学的にWilson病と診断された.酢酸亜鉛の内服が開始され,肝逸脱酵素は正常化している.2歳年下の妹がいて,現時点で健常である.両親が遺伝カウセリングに訪れ,患児の今後の経過の見通しや,妹も罹患者ではないかなどの質問があった.この両親にどのような説明・提案ができるか,考えてみよう.25歳のオルニチンカルバミルトランスフェラーゼ(ornithine transcarbamylase:OTC)欠損症の女性.3歳で高アンモニア血症を発症し,10歳時に父をドナーとして生体移植を受けている.今回,挙児を希望してパートナーと遺伝カウセリングに訪れた.どのような説明・提案ができるか,出生前と出生後に分けて考えてみよう.         最後にセルフアセスメントで考えをまとめてみましょうコラムでは最新の知識をわかりやすく解説しています別冊付録1では講義・コラムと連動して基礎的な知識を解説していますわからない部分の整理や,より進んだ学習に活用しましょう別冊付録2はコミックになっています実は身近な遺伝の問題について考えてみましょう

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