2321医学生のための基本的臨床手技
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854診察編1 心臓診察3.Don’t Do!① 仰臥位になっている患者さんの枕元や足元に立って診察してはいけません.診察者の表情が見えないため,患者さんの緊張感や不快感が強くなります.また正確な体位と部位(特に心尖部)で診察できません.② 手や聴診器が冷たいままで診察してはいけません.冷たいと,触れられた患者さんの緊張が強くなってしまい,正確な診察ができません.③ 心尖拍動と胸壁拍動の手掌による触診は左手で行ってはいけません.拍動触知の位置や範囲を正確に評価できません(図5・6参照).4.自己評価をしてみよう項目1.診察開始時,診察途中に声かけができた.1232.心尖拍動と胸壁拍動の視診ができた.1233.心尖拍動と胸壁拍動の触診ができた.1234.聴診器の膜面とベル面の使い分けができた.1235.全5領域の心音の聴診とⅠ音とⅡ音の区別ができた.1236.心雑音の有無,部位(最強点),強さ,性状を記録できた.1235.FAQQ1:椅坐位で聴診するのが一般的なのではないでしょうか? A1: 心臓診察は仰臥位で行うのが基本です.心尖拍動と胸壁拍動の診察は仰臥位(心尖拍動では左側臥位でも行う)で行わないといけません.また,心尖拍動が確認された部位(心尖部)での聴診が必要となるため,聴診も引き続き仰臥位で行うのが基本です.Q2:Ⅰ音とⅡ音がなかなか聞き分けられません.コツはあるでしょうか? A2: 心拍数が少ないときはⅠ‒Ⅱ音間よりⅡ‒Ⅰ音間の方が長くなるのでわかりやすいですが,迷う場合には,橈骨動脈などで検脈をしながら聴診するのがよいでしょう.基本的にはⅠ音のあとに脈を触れます.Q3:心雑音はどう表現すればいいでしょうか? A3: 心雑音を定義すると「心臓の拍動に伴う正常な心音以外の音」ということになります.それらは聴取部位(最強点),雑音の強さ(後述),性状(後述)の順で表記します.たとえば,「第2肋間胸骨右縁に最強点を有するLevine Ⅲ/Ⅵの頚部に放散する収縮期駆出性雑音」のように記録します(大動脈弁狭窄症の雑音).Q4:心雑音はすべて病的と考えてよいのでしょうか. A4: 機能性雑音とよばれる心臓の構造異常のない無害性雑音があります(下記,心音と心雑音の項参照).Q5: 心臓聴診を目的とする場合,どの程度の強さで聴診器を当てればよいのでしょうか. A5: 膜面およびベル面がしっかり密着する程度でよいので,強く当てる必要はありません.膜面は体表面と隙間ができると余計な膜の振動で本来はないはずの雑音が生じることがあり,ベル面は全周が密着していないと音が聴こえません.さて復習 ―臨床にふれる―1.心尖拍動と胸壁拍動の臨床的意義1)心尖拍動:左心系の異常 視診:心尖拍動がみられれば心拡大(心肥大の場合もあり)の可能性があります.ただし,健常者でもみられます. 触診:触診では健常者でもほぼ全員で確認できますが,心尖拍動の位置が外側(左乳頭から離れ左下方)に移動していると,左室拡大(左室肥大の場合もあり)の可能性があります.

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