2339小児臨床栄養学 改訂第2版
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266第6章 疾患別の栄養療法1定義と概要 くる病・骨軟化症は,骨石灰化障害を特徴とする疾患で,成長軟骨帯閉鎖以前に発症するものをくる病とよぶ1).くる病の原因は,ビタミンD代謝物作用障害(ビタミンD欠乏症,ビタミンD依存性くる病I型,ビタミンD依存性くる病II型),FGF23関連性低リン血症くる病,腎尿細管異常,薬剤性など多岐にわたるが,本項ではビタミンD欠乏性くる病を中心に解説する. くる病は,歴史的には大気汚染が深刻であった産業革命時のイギリスで多発した.その後,ビタミンDがタラの肝油に含まれる抗くる病作用を有する栄養因子として発見され,治療に応用されることで,くる病の発症頻度は激減した.しかし,生活環境・生活習慣の変化・多様化に伴い,近年再びビタミンD欠乏性くる病の頻度が増加してきている. 適切なビタミンDのシグナルを担保することは,骨・ミネラル代謝を正常に維持し,小児の成長を支えるうえで重要である.ビタミンDはその構造から植物性食品由来のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と動物性食品由来のビタミンD3(コレカルシフェロール)に分けられるが,ビタミンDは食品から摂取されるだけでなく,皮膚においても生合成される.図1に示すように,皮膚において,プロビタミンD3(7‒デヒドロコレステロール)が紫外線B波(UVB)の作用によりプレビタミンD3へと変換され,その後体温による熱異性化により速やかにビタミンD3になる.食品に由来するビタミンDと皮膚で生合成されたビタミンDは,肝臓において25位が水酸化され25位水酸化ビタミンD〔25(OH)D〕となり,その後腎臓において1α位が水酸化され活性型ビタミンD〔1α,25(OH)2D〕となる.活性型ビタミンDは,ビタミンD受容体(vitamin D recepter;VDR)の強力なリガンドとして作用し,腸管と腎臓でカルシウムの吸収および再吸収を促進し,骨の形成と成長を促す.2原因と病態 上述のようにビタミンDの生合成には紫外線の作用が必要であるため,①高緯度地域,②冬季,③濃い皮膚色,④屋外で過ごす時間が短い,⑤全身を覆う衣服の着用,⑥過度のUVケアなどの紫外線を遮るような生活習慣・生活環境はビタミンD欠乏のリスクとなる.胎児のビタミンDは母体から供給されるため,母体のビタミンD欠乏もリスクである.母乳におけるビタミンDの含有量は低いことが知られており,完全母乳栄養児における離乳食(補完食)開始時期の遅れは,ビタミンD欠乏のリスクとなる.a疾患の概念第6章 疾患別の栄養療法F代謝・内分泌疾患・染色体異常metabolism・endocrinological・chromosomal disorders6くる病rickets ●近年,ビタミンD欠乏性くる病の頻度が増加している. ●ビタミンD欠乏性くる病の治療は,適切な栄養指導と生活指導が重要である. ●ビタミンD欠乏は予防可能であり,教育・啓発が重要である.ポイント図1 ビタミンDの合成経路プロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)プレビタミンD325(OH)D紫外線(UVB)熱異性化24 水酸化酵素1α水酸化酵素ビタミンD受容体(VDR)24,25(OH)2D1,25(OH)2DビタミンD3(コレカルシフェロール)

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