2369シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第3版
2/6

病因・病態2章394 組織障害機序 れている.Jimenezら12)は,caspaseとその基質であるDNA修復酵素の1つpoly(ADP-ribose)polymerase(PARP)のSS唾液腺組織での発現を検討した.この結果,PARPとcaspase 3の発現はSS唾液腺の導管・腺房上皮細胞にみられたが,caspase 9の発現はみられないことを示した.SS唾液腺におけるcaspase 3の意義は,アポトーシスそれ自体のみならずα-フォドリンの120 kDaフラグメントへの分断を誘導することが知られており13),自己反応性T細胞への分化へも関与していると思われる.われわれは,SS唾液腺のアポトーシスにおけるcaspaseの意義を培養唾液腺細胞を用いてin vitroで検討し,Fas刺激およびTRAILによるアポトーシスの違いを示した(図2)14).最近われわれは,toll-like receptor 3(TLR3)を介するシグナルもSS唾液腺でアポトーシスを惹起することを報告した15).このことから,自然免疫の関与も考えられる(図3).2自己反応性T細胞による組織障害自己抗原に対する抗原特異的なT細胞増殖による組織障害機序も,SSにおける唾液腺・涙腺の破壊機序の1つであると考えられている.Francoら16)は以前,SS唾液腺上皮細胞は抗原提示能を有するHLA-DRを発現しており,HLA-DRを発現した上皮細胞近傍に浸潤リンパ球が観察されることを示した.SSにおける自己抗原としてMatsumotoら17)は,唾液腺のα-アミラーゼの合成アミノ酸とSS患者末梢血をincubateし,T細胞レセプターのsingle-strand conformation polymorphism(SSCP)解析を行った結果,27%のSS患者唾液腺においてα-アミラーゼ反応性のT細胞の存在を確認した.またHanejiら18)は,NFS/sldマウスを用いた検討から,分断化された120 kDa α-フォドリンに対する自己反応性T細胞の活性化を見出し,これがヒトにおいてもSS特異的抗原であることを報告した.さらに,α-フォドリンに対するCD4+T細胞が有するFas Lにより唾液腺障害が誘導されることも示している.近年,Naitoら19)は,SS患者におけるM3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体(muscarin-ic acethylcholine receptor:M3R)に対する自己反応性T細胞の存在を示し,SS唾液腺障害に関与していることを示唆した.ウイルス感染による唾液腺炎についてInoueら20)は,Epstein-Barr(EB)ウイルスの再活性化とα-フォドリンとの関連について検討を行った.すなわち,EBウイルスの活性化によりアポトーシスが誘導され,これに伴いEBウイルス関連蛋白であるZEBRA抗原が120 kDa α-フォドリンとともに発現していることが示された.Saitoら21)は,EBウイルス構造遺伝子であるBCRF-1領域と相同性の高いサイトカインであるinterleu-kin(IL)-10産生に着目し,唾液腺破壊機序について検討を行った.その結果,IL-10トランス抗原特異的自己反応性T細胞SS唾液腺上皮細胞Fas/Fas L下流TRAIL下流Bcl-2/xLCD40caspase 8caspase 3caspase 8caspase 9caspase 3アポトーシスFADDdeathdomain可溶性Fas LFas LFasFasTRAIL図2 FasとTRAILにおけるアポトーシス誘導性機序の違い自己反応性CD4+T細胞はBcl-2/xLを発現することにより細胞死を免れ,発現したFas Lが唾液腺のFasとの結合でdeath domainおよびcaspase 8/3を介したアポトーシスを生じる.同様の機序は可溶性Fas Lの刺激でも生じる可能性がある.一方,TRAILによるアポトーシスでは,ミトコンドリア経路の関与を示すcaspase 9の活性化を伴うアポトーシスが生じる.

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る