2369シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第3版
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226第5章 対応と治療かった.現在までの臨床試験の結果からは,エタネルセプトはSSに対して無効であろうと推察される.3)リツキシマブ(リツキサン®)リツキシマブはキメラ型抗CD20抗体であり,B細胞を標的とした生物学的製剤の1つである.日本では,すでにCastleman病やB細胞リンパ腫に対して承認されている.一方,欧米では,RAに承認され,多発血管炎性肉芽腫症(旧名:Wegener肉芽腫症)などの臨床治験が進められている.SSに対しては,2005年Pijpeらが,15例のSSを対象としてオープン第二相試験を実施した5).体表面積あたり375 mgを週1回,4週連続で点滴投与した結果,症状の改善,唾液量の増加,併発していた粘膜関連リンパ組織(muco-sa-associated lymphoid tissue:MALT)リンパ腫(7例)の軽快が報告された.リツキシマブ投与前後における同一患者の唾液腺組織を検討し,明らかな改善を認めている6).Devauchelle-Pensecらは16例の原発性SS患者に対して,375 mg/m2/週を2回投与した時点で,自覚症状および客観的所見の改善を認めた7).さらに,2007年にSerorらは,全身の合併症を伴う16例の原発性SS患者に対する有効性を報告した8).2008年にはPaul Emeryらのグループも1 gの2回投与によりSSの改善を認め,有効と報告している9).リツキシマブの治療効果は,①自己抗体産生の抑制,②自己反応性T細胞への抗原提示の抑制,③サイトカイン産生の制御,などによると考えられている(図3).SSの病態には,T細胞応答,抗M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体(M3 muscarinic acetylcholine receptor:M3R)抗体などの機能的な自己抗体が中心的役割を担っているため,B細胞をターゲットとする治療は,T細胞,自己抗体の両者をともに制御できる一石二鳥の理想的な治療戦略の1つである.4)ベリムマブ(ベンリスタ®)B細胞活性化因子(B-cell activating factor:BAFF)は,単球,マクロファージ,樹状細胞などの膜状に発現し,可溶型蛋白として分泌される.B細胞上の3つの受容体(BAFF-R,TACI,BCMA)に結合し,B細胞の生存,分化,抗体産生に重要な役割を果たしている.近年,フランスのSerorらは,BAFFに対するモノクローナル抗体(ベリムマブ)を15名のSS患者に投与し,次のような報告をした.28週間後の唾液腺組織におけるfocus scoreの改善および細胞浸潤の減少(特にB細胞数)が確認された(12th ISSS ab-stract).以上の事実から,BAFFに対するモノクローナル抗体を用いた治療がSSに対する新たな治療戦略となる可能性が示唆された.5)CTLA-4 Ig:アバタセプト(オレンシア®)CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte antigen 4,CD152)はT細胞膜上に発現した分子であり,CD80/86のシグナルによりT細胞に抑制シグナルを伝える分子である.CTLA-4と免疫グロブリンIgG1との融合蛋白CTLA-4 Ig(アバタセプト)はT細胞の活性化を抑制し,RAの治療薬として認可されている.Adlerら10)は原発性SS患者11名に対してアバタセプト治療を施行し,24週後において唾液腺組織における細胞浸潤の改善と唾液量の増加を認めた.またMeinersら11)は,15名の原発性SS患者に対するアバタセプト臨床研究において,EULAR Sjögren’s Syndrome Disease Activity Index(ESSDAI),EULAR Sjögren’s Syndrome Patient Reported Index(ESSPRI)の改善を報告した.筑波大学,産業医科大学,長崎大学の3大学の共同研究は,RA合併SS症例に対するアバタセプトの治療効果をパイロット研究として進めてきた.24週および52週例においてドライアイとドライマウスに対する患者visual analog scale(VAS),口腔乾燥と乾燥性角結膜炎に対する医師VAS,Saxonテスト,Schirmerテストにおいて有意な改善が報告された12,13)(表1).以上の結果から,T細胞を標的としたCTLA-4 Ig療法がRA合併SS患者に対するゴールドスタンダード治療となる可能性が示され,実自己反応性B細胞CD20自己反応性T細胞自己抗原自己抗体サイトカイン抗CD20抗体図3 リツキシマブの機能

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