2381網羅的手法による着床前診断のすべて
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3Part.1 着床前診断とはbPGT-M(preimplantation genetic testing for monogenic / single gene defects)従来の単一遺伝子疾患の着床前診断(preimplantation genetic diagnosis:PGD)に該当し,重篤な遺伝性疾患の保因者カップルから罹患した児の出生を防ぐことを目的とする.cPGT-SR(preimplantation genetic testing for structural rearrangement)従来の染色体構造異常の着床前診断に該当し,染色体転座などの構造異常を有するカップルが流産をくり返す場合に,不均衡型染色体構造異常を有する胚を除外して移植し,流産率の低下と妊娠継続率の向上を目的とする.背 景カップルのいずれもが常染色体劣性遺伝疾患の保因者の場合や,女性がX連鎖劣性遺伝疾患の保因者である場合には,胎児にこれらの疾患が発症し,重篤な表現型を示すことがある.このような場合に以前は絨毛検査や羊水検査などの侵襲的検査による出生前診断を行って,罹患児かどうかを診断するという方法しかなかった.出生前診断では侵襲的検査により流産する可能性や母体に負担のかかる人工妊娠中絶になることもありうる.また母体保護法では胎児異常を理由とした人工妊娠中絶が認められていないことから,出生前診断後の罹患胎児の人工妊娠中絶は,厳密には法令違反であるという極端な意見もある.そこでこれらの問題を回避する手段としてIVF-ETの技術を用いて,非罹患胚だけを移植して妊娠させる方法が開発された.これが最初の段階の着床前診断である.こうした利点がある一方で,カップルに妊孕性があっても体外受精が必要になること,胚生検による影響はヒトの長期にわたる安全性という点では確立されていないこと,そして受精卵の段階で移植胚を選択することの生命倫理的なことなどが課題となっている.海外の報告a海外での臨床応用 海外では動物の胚を用いた実験を経てヒトに対しての着床前診断の臨床応用がなされた.イギリスのHandysideらは,1990年にX連鎖劣性遺伝疾患の保因者であるカップルで,胚の割球生検を行って,polymerase chain reaction(PCR)によりY染色体特異的DNAを検出するという遺伝学的な性別診断(着床前診断)を行って,副腎白質ジストロフィーの保因者カップルとX連鎖劣性精神発達遅滞の保因者カップルから,女児を誕生させ,これらの罹患児の出生を避けることができたと報告した4).この報告の段階ではPCRによりY染色体特異的DNAを増幅して性別の診断を行っており,罹患胚の診断にまでは至っていなかった.男児であっても50%の確率で非罹患であるから,性別診断では完成された手法とはいえなかった.しかし,ほどなく1992年に同じHandysideらのグループから疾患遺伝子を検査した着床前診断が報告され,単一遺伝子変異により発症する常染色体劣性遺伝疾患である囊胞性線維症の保因者カップルから着床前診断で非罹患児が出生した5).染色体異常については1990年に割球でfluorescence in situ hybridization(FISH)法を用いてXとY染色体の異数性を診断できることが報告された6,7).1993年にはFISH法を用いて13,18,21,X,Yの

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