2385小児救急治療ガイドライン 改訂第4版
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総論45やすさだけからの問題啓発でもって,これらの保護者を簡単に批判することは身勝手な理論であり,複雑な社会文化的要素を考慮すれば,医療提供側だけでは解決できない,解決してはいけない面があると思われる.いずれにせよ,わが子の急病はできるだけ軽症で終わらせたいという強い要望が保護者にあり,時間外・夜間受診行動につながっているものと考えられる.朝まで待てない,あるいは日中診察にて適切な診断治療説明を受けているにもかかわらず,夜間になると急病不安感がつのり,日勤帯診療まで待てずに時間外初期救急医療を受けるという受療行動が起こっている.一方,小児の意思表示の未熟さは,小児救急に成人とは異なる特殊性を与えている.すなわち,訴えの不明瞭さゆえに疾患の緊急度・重症度判断あるいは重症化の予知が困難であり,病勢の進行が速く,重症化しやすいという特徴である.さらに発達年齢に特徴的な救急疾患や事故がみられることや,それらが反復しやすいこと,流行性疾患が多いこと,養育環境などを含めた育児方法の誤解や大人全体の無意識下における養育環境の劣悪化などにより,容易に罹患・反復しての救急疾患が多いこと,診断検査治療においても患児の協力の得られにくさから困難性を有していることなどが,小児救急疾患の特殊性といえる.この小児救急疾患の特殊性こそが,救急医療・時間外医療であっても保護者が小児科専門医診療を強く望む大きな一因と考えられる.加えて,保護者の子どもの急病への不安は医療側が想像している以上に強く,かつ高揚しているといえる.このような受診環境のなかで,受診する患児の純医学的な緊急度・重症度判断ではなく,保護者・家族の急病不安を汲み取っての社会医学的重症度判断を医療側が求められていることも,小児救急疾患の特殊性となっている.こうした社会医学的な一面において,小児科専門医に最も理解してもらえるという期待感が,小児科専門医の診療希望へつながっていると予想される.小児救急医療の理想像はどうあるべきか?わが国の社会において,特に大人たちが気づかぬまま,小児の養育環境の粗悪化・劣悪化が起こっていることは事実である.この養育環境の変化に伴う小児の易罹患性,反復罹患性の増加は成人よりも明白であり,その自己予防も子ども自身には不可能である.したがって,いかに保護者に養育環境の劣悪化の改善を指導・啓発するかという予防医学的な側面をも,小児救急医療自体は担っているといえる.これらの健全育成のための養育環境の整備は極めて重要であり,理想的な養育環境を整えるためには子どもたちの発育・発達に合わせて,綿密な指導が必要とされている.その適切な指導は,専門医である小児科医のidentityに深くかかわるものであり,保護者への適切な指導教育は小児科医によるものが望ましいともいえるであろう.また,発達年齢と救急疾患・事故外傷には強い相関性がある.小児の発達の特徴を把握することは,総合的な小児救急医療の質的向上をもたらすものであり,その実践が医療提供側に求められている.育児不安の強い保護者は救急医療といえど,このような総合的な社会医学的診療を望んでいると考えられ,「なぜ小児科専門医の診療を希望するのか?」という保護者の行動に対する答えはこの点にもあると考えられる.実際に,小児初期救急医療の実践は小児総合診療の実践対応の一環であることを,小児科医自身がもっと再認識すべきである.単に急病・事故外傷の救急治療にとどまらず,その予防医学や日常生活上の注意などの啓発活動を含めた,患児の将来的なqualityoflifeを見据えた救急医療対応が望まれている.このような全人的な医療提供を,もっともっと全小児科医が率先して行う必要がある.これこそ,患者家族が求めている小児救急医療の質にほかならないといえる.保護者が小児救急医療を小児科専門医に求めている今こそ,小児科専門医が子どもたちの健全育成に,あるいは子どもたちが生き生きとできる社会の形成,さらには社会の未来のためにも非常に重要かつ不可欠な専門職種・医療専門

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