2386新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019
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1 はじめに 先天代謝異常症の中には,代謝救急が必要になる疾患が多く含まれている.あらかじめ診断がついている場合は,通常の救急医療に加え,その疾患にあわせた特殊治療を行うことによって,より確実な救命,救急が可能となる.しかしながら診断がついていない場合,特に初診時に,鑑別診断と同時に治療を開始しなければならないこともある.その代表的な病態が,低血糖,代謝性アシドーシス,高アンモニア血症である.このような場合,脂肪酸代謝異常症,有機酸代謝異常症,尿素サイクル異常症などの鑑別診断を行いつつ,治療を開始することになる.これらの疾患の詳細な診療に関しては各ガイドラインを参照していただきたい.ここでは,first lineの検査から治療の方向性を決めて,確定診断までの間に行うべき診療の指針を示す. 2 先天代謝異常症を疑うポイント1)(1) けいれん,筋緊張低下,意識障害,not doing well(2)感染症や絶食後の急激な全身状態の悪化(3)特異的顔貌,皮膚所見,体臭,尿臭(4)代謝性アシドーシスに伴う多呼吸,呼吸障害(5)心筋症(6) 肝脾腫(または脾腫のない肝腫大,門脈圧亢進所見のない脾腫)(7)Reye(様)症候群(8)関連性の乏しい多臓器にまたがる症状(9)特異な画像所見(10)先天代謝異常症の家族歴(11)死因不明の突然死 3 検体検査 前述のごとく先天代謝異常症が疑われれば,まずはfirst lineの検査を行う.血糖,血液ガス,アンモニア,乳酸・ピルビン酸,血中ケトン体/尿中ケトン体/遊離脂肪酸である2).受診時のこれらの検査結果が,通常の診療でよく経験するレベルを超えた異常値であった場合は,そのすべての児に対して,先天代謝異常症は疑われるべきである.これらの検査は,ピルビン酸,遊離脂肪酸を除いて緊急検査や迅速キットなどで施行可能であり,1時間以内に結果を揃えることが重要である.結果がすぐに出ない場合でも,治療前のcritical sampleで上記の検査依頼を出しておくことは必要である.異常があった場合には,後述の治療を開始する前に,second lineの検査として,ろ紙血を用いたアシルカルニチン分析,尿中有機酸分析,血中アミノ酸分析などを行う.休日や夜間の救急対応時においても,治療前のcritical sampleとして表1のようにろ紙血,血清,尿を採取し,保存しておくことが重要である.このcritical sampleを用いて確定診断が行われることが多い.DNA用全血や皮膚線維芽細胞は必要に応じて採取する.特に予後が厳しいと考えられる場合には積極的に採取する.低血糖,高アンモニア血症,高乳酸血症,ケトン体高値の鑑別診断を図1~4に示す. 4 治療の実際 前述のfirst lineの結果より,診断の方向性を予想し,治療を開始する.以下に代謝性アシドーシスと高アンモニア血症の2通りの組み合わせを詳述する. どちらの場合においても,低血糖を認めた場合,血糖値を測定しながらブドウ糖静注を行うが,先天代謝異常症に伴う低血糖は,最終的にブドウ糖投与速度(GIR)8~10 mg/kg/minのブドウ糖を必要とすることもある.糖代謝に異常のない有機酸代謝異常症や尿素サイクル異常症などであっても,低カルニチン血症を伴うことにより,低血糖が遷延することがある.また,治療開始時2新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019代謝救急診療ガイドライン1

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