2398みんなで考える性分化疾患
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1 性分化疾患を理解するためには,ヒトの性がどのような機序で決定されるかを理解することが大切である.このヒトの性が決定される過程を性分化とよぶが,広い意味では,思春期に起きる二次性徴の変化を経て,生殖能を獲得し,性的に成熟した成人になるまでを含む.しかし,狭い意味では胎児期に性差が決定される過程を指すことが多く,本項では,この狭い意味で性分化という言葉を用いる. ヒトの性分化は,いくつかの段階を経て行われることが判明している.最初に染色体の性が決定し,引き続き性腺の性,そして最後に内性器・外性器の性が決定する.これらの過程が非典型的になる先天的な状態(たとえば,染色体の性は男性型であるのに,外性器の性は女性型であるなど)を性分化疾患とよび,英語ではdisorders of sex developmentと書き,頭文字をとってDSDと略される.社会医学的には,DSDは疾患ではなく体質と捉える考えが広まってきており,DSDの最初のDはdisorders(疾患)だけではなく,differences(違い)も意味するとされている.そのため,最近では,性分化疾患をdifferences/disorders of sex developmentと記載するようになってきている. この性分化の過程はとても複雑であることが判明している.この過程では,数多くの遺伝子の働きが必要であり,これらの遺伝子の異常はDSDの原因となる.さらに,精巣が合成・分泌する液性因子(抗ミュラー管ホルモン〈anti-Müllerian hormone: AMH〉やテストステロン〈testosterone: T〉)も性分化の過程で重要であることがわかっている.本項では,DSDを理解するために必須の性分化の過程を解説する.❶性分化の仕組みa.染色体の性の決定の仕組み 性分化の第一のステップは,染色体の性の決定である.多くの場合,父親は46,XY,母親は46,XXの染色体を有している.父親からは,減数分裂*を経て精子が,母親からは卵子が作られる.つまり,精子が有する染色体は23,Xないし23,Yであり,卵子が有する染色体は23,Xとなっている.精子と卵子が受精し受精卵となるが,23,X精子と23,X卵子が受精した場合は受精卵の染色体は46,XXに,23,Y精子と23,X卵子が受精した場合の受精卵は46,XYになり,両者は同じ確率で形成される.ターナー症候群やクラインフェルター症候群ではこの過程の異常に起因することが示唆されている.b.性腺の性の決定の仕組み 性分化の第二のステップは,性腺の性の決定,すなわち精巣あるいは卵巣の決定である.性腺や内性器は,中間中胚葉由来の泌尿生殖隆起より発生する.この泌尿生殖隆起は,性腺以外にも腎臓や副腎へと発生していく.泌尿生殖隆起が発生していく過程で,胎児の卵黄囊尾側から発生し遊走してきた始原生殖細胞と混ざり合い,未分化性腺が形成される.未分化性腺は,精巣にも卵巣にも分化する能力を有しており,6週以降に精巣あるいは卵巣へと分化・発生していく(図1).c.精巣への分化 未分化性腺は,Y染色体上に存在するSRY(sex determining region of the Y chromosome)遺伝子の働きにより,精巣へと分化していく.SRY遺伝子の重要性は,46,XX個体におけるSRY遺伝子の転座により第1章:DSDとは性分化の過程1*:染色体の数を半数体にするための細胞分裂で,生殖細胞のみが行う.

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