2400子どもの予防接種
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2 予防接種は,天然痘の根絶をはじめ,多くの感染症の拡大を防ぎ,患者数・死亡者数の大幅な減少をもたらすなど,感染症対策上きわめて大きな役割をはたしてきた. わが国でも,感染症がまん延し,大きな被害を出してきた時代は過ぎ去り,予防接種が感染症の流行抑制に大きく貢献をしてきたことが,忘れられてしまいがちとなっている. 予防接種により国民全体の免疫水準を高く維持するためには,予防接種の機会を安定的に確保するとともに,社会全体として一定の接種率を確保することが必要である.一方,多くの人々にワクチンを接種すれば,きわめてまれではあるが重篤な健康被害が発生することがありうる事実についても,社会全体に正確に伝え,人々の理解を得るようにすることも重要である. 予防接種の目的は,ワクチンで予防できる疾患の発生および拡大を予防し,公衆衛生の向上および増進に寄与するとともに,予防接種による健康被害の迅速な救済をはかることとされている.1)ワクチンで予防できる疾患 代表的なウイルス感染症としては,麻疹,風疹,おたふくかぜ,水痘,ロタウイルス感染症,インフルエンザ,A型肝炎,B型肝炎,日本脳炎,ヒトパピローマウイルス感染症などがあげられる.細菌感染症としては,百日咳,肺炎球菌感染症,Hib感染症,結核,髄膜炎菌感染症などがある.2)生ワクチンと不活化ワクチン 生ワクチンには,弱毒化した細菌やウイルスそのものが利用される.一方,不活化ワクチンには病原体をホルマリンなどで不活化したワクチン,感染防御抗原を精製した成分ワクチン,病原体が産生する毒素を不活化したトキソイドが含まれる. 生ワクチンは,生体内で増殖することで自然感染と同様に,細胞性免疫および液性免疫を誘導する.生ワクチンは弱毒化されているが親株の性状が残っているため,接種後に頻度は低いが野生株での自然感染による症状(副反応)が認められることがある. 不活化ワクチンは,主として抗体産生を誘導することで感染防御機能をはたしている.抗原に対する抗体産生メカニズムを図11)に示す.B細胞を直接刺激する系と,T細胞に認識され抗体産生する系が存在する.細菌の莢膜多糖体は,T細胞非依存性抗原であるため,T細胞を介することなく,直接B細胞受容体(B cell receptor:BCR)で莢膜多糖体抗原が認識され,抗体が産生されるが産生能はT細胞を介した系より低い.Hib,および肺炎球菌の莢膜多糖体を抗原としたワクチンは,免疫が十分に成熟していない乳児で抗体産生能が誘導できないため,破傷風トキソイド,ジフテリアトキソイド,髄膜炎菌の外膜蛋白の一部をキャリア蛋白として結合させ,T細胞に認識されるようにした結合型(conjugated)ワクチンとして開発された. T細胞に認識されて抗体産生を誘導する系では,T細胞受容体を介してB細胞の活性化・分1.予防接種の意義2.予防接種の目的3.ワクチンで予防できる疾患と予防接種の種類予防接種の意義と免疫1第Ⅰ部 総 論ワクチンで予防できる疾患[p. 6]生ワクチンと不活化ワクチン[p. 6]

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