2419子どもの精神保健テキスト 改訂第2版
4/6

46.思春期の概念 思春期とは,第二次性徴前の児童期から青年期への移行期にあたる時期のことをいう.青年期前期および中期と捉える場合もあるが,一般に,はじまりは10~12歳,終わりは14~16歳頃である. 大切なのは,思春期は年齢での分類ではなく,個々の身体や精神の変化の一時期を表す,ということである.子どもによっては10歳前で思春期といえることもあり,また逆に12歳を過ぎてもまだまだ幼さの目立つこともある. 思春期には,身体の成長と性的成熟が急激に進む一方で,精神的発達は急加速することがないため,「子どもではない」という意識と「まだ大人として振る舞うには自信がない」という意識とで情緒が不安定になりやすい時期として注目されてきた.7.青年期の概念 青年期とは思春期と成人期の間の時期であり,親の保護から独立する時期のことを指す.前述したように,青年期前期を思春期とよぶ場合もあるが,やはり青年期も年齢での定義ではなく,通常は18歳以降からの精神的成熟・経済的自立をもって終結とする.しかし,終結の時期は時代や基準により変動するため,よりあいまいであり,年齢での目安はない. 青年期は,第二次性徴など身体的な成長はほぼ完了しているが,精神的には「自分とは何者であり,社会の中でどんな役割を果たすことができるのか」「自分の人生の目的は何か」などを自問し,答えを見出そうとする時期である.アイデンティティ(自己同一性)の確立・獲得という成熟過程にあり,未来を展望して一貫性をもった自己イメージが確立されていく途上である.そのことで,社会的にいろいろな活動に参加することや,恋愛感情をもった交際,職業の選択などが必要になってくる.8.移行期,AYA世代の概念 医療の分野では,小児科と内科の狭間であり,この年齢で多く発生する心身の問題に対応するため,「思春期科」を標榜するところもある.さらに,喘息やてんかんなど小児期に発症した慢性疾患がそのまま青年期以降も持続する場合は「移行期」,この時期に新たに生じる疾患はAYA世代の疾患として,切れ目なく包括的に捉えるような取り組みがなされている. 「移行期の概念」は一般には普及していないが,精神保健においてとても重要なことである.これまで述べてきた通り,成長や発達段階は単純に年齢で区別できるものではない.就学前は母子保健,学校に通う年齢では学校保健,就労後は精神保健,という現在の日本における行政システムも1人の子どもの成長,発達過程を考えると合理的ではなく,本人の選択決定権もない.また,この行政システムにより支援が断続的になってしまう子どもを1人の医師が継続して診るということは現実的ではない.そうすると,しっかりとした引継ぎや連携システムの構築が望まれる. AYA世代は,がん治療の狭間の年齢から使用されるようになった用語である.がん治療に限らず,主として身体的な負担により,自立,社会参加,そして独立して過程を営むことに,多くの配慮や支援を必要とする青年も存在するのも事実である.AYA世代の概念は,身体的慢性疾患や精神疾患にも通じるものがあり,切れ目のない支援を検討するには重要な概念であろう.

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る