2441小児IgA腎症診療ガイドライン2020
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CQ 133かった.Coppoらは腎機能障害の進展と高度尿蛋白に対してACE阻害薬は効果があると結論づけている. 一方,軽度蛋白尿を認める小児IgA腎症患者に対するRA系阻害薬の有効性を検討したRCTは存在しなかった.しかし,国内からNakanishiらによって比較対象を設定しないリシノプリル単一群の前向き試験が行われた2).巣状メサンギウム細胞増多を呈する組織学的軽症IgA腎症40名に対して2年間のリシノプリル投与を行ったところ治療開始時と比較して有意に尿蛋白量は低下しており(P < 0.0001),全体の80.9%で尿蛋白は消失していた.その一方でめまいの有害事象は全体の12.5%でみられ投薬の減量により消失し,投与を中止した症例はなかった.以上より小児の軽症IgA腎症の治療においてリシノプリルは効果的かつ安全であると結論している.またEllisらはロサルタンの蛋白尿減少効果をケースコントロール研究で検討した.軽度蛋白尿からネフローゼ症候群を呈する小児52名(IgA腎症/IgA血管炎腎症21名)にロサルタンを投与したところ,平均2.48年間観察した37名でネフローゼ症候群は40%から8%に減少し,プレドニゾロンを含む免疫抑制薬併用の割合と量が著明に減少したと報告している3). 小児IgA腎症患者におけるACE阻害薬とARBの併用療法の有効性を検討したpilot studyでは海外ではBhattacharjeeら4),国内ではTanakaら5)やYangら6)による報告がみられる.いずれも高度蛋白尿を呈したIgA腎症患者にACE阻害薬にARBを追加投与すると蛋白尿減少効果が認められている.ACE阻害薬とARBの併用療法のRCTは,Shimaらが巣状メサンギウム細胞増多を呈する組織学的軽症IgA腎症患者に対するリシノプリル単独投与群とリシノプリルとロサルタンの併用投与群のRCTを報告している7).その結果,2年間の治療による蛋白尿の消失率において単独投与群(89%)は併用投与群(89.3%)と同等の効果があった.有害事象ではめまいの発生率が併用投与群で多かったがそれ以外では両群間で有意差はなかった.さらに腎病理組織所見におけるメサンギウム細胞増多や半月体形成率の改善も両群間で有意差を認めなかったことから小児の軽症IgA腎症ではリシノプリル単独投与を推奨している. 小児IgA腎症の治療にRA系阻害薬を用いた長期予後の検討は少ない.Higaらは32例のRA系阻害薬投与例を含めた106例の蛋白尿が0.5g/day/1.73m2以下の小児IgA腎症患者を後方視的に検討したところ15年後の腎生存率は100%であった8). 以上から,本ガイドラインでは小児IgA腎症患者においてRA系阻害薬はアンジオテンシンIIによる糸球体内圧上昇と線維化や炎症を抑制し,ACE阻害薬は尿蛋白を減少させるため,投与を推奨する.またARBはアンジオテンシンIIの働きを直接抑え,ACE阻害薬との併用療法の結果からACE阻害薬と同様の治療効果が期待できると考える.ACE阻害薬とARBの併用療法については,軽度蛋白尿に対してはACE阻害薬単独投与を推奨し,高度蛋白尿については今後の検討課題とする.なおRA系阻害薬による治療を開始し,血圧の低下,推定糸球体濾過量(estimated glomerular ltration rate:eGFR)の低下,血清Kの上昇がみられた場合は減量あるいは中止の検討をする.また,RA系阻害薬の妊婦への投与によりACE阻害薬/ARB fetopathy(重症羊水過少,肺低形成,末期腎不全,四肢拘縮)が生じるため,妊婦または妊娠している可能性のある女性には禁忌であり9),妊娠可能年齢の女性においては,胎児に対するRA系阻害薬の影響について十分に説明を行って理解を得ること,またその説明を診療録に記載する必要がある.

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