2454不安とうつの統一プロトコル 診断を越えた認知行動療法 臨床応用編
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45大うつ病性障害に対する統一プロトコル第5章1 はじめに 大うつ病性障害(MDD)は多くの場合,慢性の消耗性疾患であり,時間の経過とともに一進一退するが,消失することはめったにない(Judd, 2012)。生涯に経験する抑うつエピソードの中央値は4回から7回である。ある大規模な調査では,全体の25%が6回以上のエピソードを経験していた(Angst, 2009;Kessler & Wang, 2009)。また,MDDの診断基準を満たさない軽度の抑うつ症状であっても臨床的に重要であり,影響力が強く,個人としても社会としても多大な損失につながる(Horwath, Johnson, Klerman, & Weissman, 1994)。また,MDDなどの単極性うつ病性障害は,不安症の併存割合が高い。MDDと診断された患者の約76%は少なくとも一つの併存症があり(Kessler et al., 2005),ある外来患者の大規模調査では,MDD患者の50.6%が不安障害を合併しており,なかでも社交不安障害の併存が最も多かった(Fava et al., 2000)。 抑うつ障害と不安症の併存や症状の重複から,これらの疾患は同じ「全般神経症症候群general neurotic syndrome」の多様な表現型であると結論づけている研究者もいる(Andrews, 1990, 1996;Tyrer, 1989)。複数の研究がこの結論を支持している(例:Barlow, 2000;Barlow, Allen, & Choate, 2004)。たとえばBrownら(Brown, Chorpita, & Barlow, 1998;Brown, 2007)は感情障害の階層構造を支持する結果を示しており,この研究では高次の気質的構成概念が伝統的なDSMの不安とうつ病性障害の構成概念間の有意な共変関係を説明していた。不安症と同様に,MDDはネガティブ情動(Clark & Watson, 1991)や行動抑制の高さに関連している。社交不安障害と同様に,MDDはポジティブ情動や行動活性化の低さと関連している(Brown, 2007)。ほかの文献で述べられているように(例:Barlow, Ellard, Sauer-Zavala, Bullis, & Carl, 2014),このようなパターンは神経症傾向の伝統的な概念化と一致している(Eysenck, 1967, 1981)。2 治療への示唆 ほかの感情障害と同様に,抑うつは神経症傾向を構成する遺伝的な気質パターンを特徴とする。特に,ネガティブ情動を頻繁に強く体験し,そのような情動に対して過敏にネガティブに反応する素因に特徴づけられる。MDDは,内容的に不安のテーマと区別されるかもしれないが(例:将来の脅威ではなく過去の喪失),不適切な対処や柔軟性のない認知スタイルという心理プロセスは類似している。エビデンスに基づくMDD治療アプローチの鍵となる原則は,UPの中核モジュールに組み込まれている。そこには,感情の本質と認知・身体感覚・行動の相互作用についての心理教育,客観的なモニタリングの練習,認知的柔軟性の促進,感情回避の抑制と感情駆動行動のより適応的な代替行動(例:行動活性化)への置き換え,(曝露と行動実験を通しての)反応性の苦痛と感情体験の間で条件づけられた連合の消去などが含まれる。以下の節では,MDDを主診断とする患者にUPを適用した事例を示す。はじめに背景と事例概念化を提示し,抑うつ症状(閾値以上・以下の両方の場合)のある患者に対して各モジュールを一般的にどのように利用するかの概要を説明し,事例を通して具体的な利用法を記述する。事例についての記述のなかでは,この患者がネガティブ感情をどのように頻繁に体験し,これらのネガティブ感情に対する嫌悪的で不適応的な反応をどのように体験しているかという点に焦点を当てていく。3 事例 ジョンは20歳独身のヨーロッパ系アメリカ人男第 5 章大うつ病性障害に対する統一プロトコルジェームズ F. ボズウェル,ラーレン R. コンクリン, ジェニファー M. オズワルド,マテオ ブガッティ

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