2454不安とうつの統一プロトコル 診断を越えた認知行動療法 臨床応用編
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19診断横断アセスメントと事例概念化第2章ここでの診断横断アセスメントでは,感情に対する断定・嫌悪・破局視を反映した思考に注目する。なお,単体の認知(例:「自分がこれを楽しんでいないことが嫌だ」)もあれば,感情体験のほかの要素と関連した認知(例:心拍が上昇するのを感じて「きっと私はノイローゼになってしまう!」)もある。また,回避として機能している可能性のある行動にも目を向ける(例:「うたた寝」「先延ばし」)。さらに治療者は,感情のARCについて話し合うときに,不快な感情をすぐに和らげようとして(例:仕事の採用面接をキャンセルして短期的には気分が落ち着く),かえって長期的にはネガティブ感情を増大させる(例:新しい仕事を探していないことに対して罪悪感を感じ続ける)ことに注目して,言及するとよい。 感情への非断定的な気づきのセッション(モジュール3)は,感情に対する嫌悪を同定するよい機会である。なぜなら,このモジュールでは,感情を体験する際に生じる断定的な思考を観察し,その断定的な思考から自分を引き離すことを練習するからである。同様に,認知的柔軟性に取り組むモジュール4では,思考のくせに着目する。患者には,ネガティブな結果が起こる頻度を過剰に見積もる傾向(例:「飛行機に乗ったら,間違いなくパニック発作が起こる」)や,ネガティブな結果に際して「自分には対処できない」と自身の対処能力を過小評価する傾向(例:「パニック発作が起きたら,心不全で死んでしまう」)があり,どちらも感情に対する否定的な信念を示す目印となる。 治療がさらに進んだモジュール5では,回避的な感情行動を具体的に同定するよう患者に求めていく。具体的には,特定の感情行動がネガティブ感情の長期的な維持にどのように寄与しているのかを同定する(例:不安を喚起する状況から逃避する)。さらに,治療終盤の曝露において治療の進展をモニタリングする際にも,治療者は嫌悪と回避に関する実際の行動を同定することができるだろう。 UPの各モジュールで機能プロセスを継続的に査定するのに加えて,不安症状と抑うつ症状についても毎週,継続的に査定することを推奨している。なお,私たちは,OASIS(不安の重症度と生活障害の全般尺度;Norman, Hami Cissell, Means-Christensen, & Stein, 2006を参照)および,ODSIS(抑うつの重症度と生活障害の全般尺度;Bentley, Gallagher, Carl, & Barlow, 2014を参照)を用いている。どちらも5項目からなる自己報告式の簡単な尺度で,過去1週間に感じた不安・抑うつの頻度や強度,生活への支障度を査定する。これらの尺度の得点を継時的にグラフ化し,治療の進行を表す指標とする。なお,治療を開始する際に,ワークブックに掲載された〔進行表〕の例を患者に見せるとよいだろう。そうすることで,一般的には抑うつ・不安の得点が徐々に下がっていくことを強調したり,時間経過のなかで変動(上がったり下がったりすること)があることをノーマライズできる。ODSISとOASISは診断特異的な症状を測定する尺度ではなく,診断横断的なうつや不安症状を測定しているため,それぞれの患者が気になっている問題を全般的に捉えられるというメリットを有している。 Box 2.1はセラピストガイド(Barlow, Farchione, et al., 2017)から転載したもので,感情障害の特徴を同定する際に役立つ質問の例を示している。これらの質問に患者が「はい」と答えた場合,治療者がさらに質問を続けることで,その症状をより明確にしていくことができる。アセスメントから治療計画の立案へ 感情障害が生じているプロセスについて最初のアセスメントを終えたら,次のステップはその情報を個別の患者に合わせて治療方針に活かしていく。その際に,UPのスキルはすべて,不快な感情をより積極的に受け入れる姿勢を養い,不適応的な感情調整の使用を減らすためにあることを意識するのが大切である。治療を進めながら,感情に対する嫌悪反応と,回避的な対処に着目し,標的として扱える機会がないか常に注意を払う。たとえば,患者が過去1週間の全般的な気分や出来事に対する自分の反応について報告した際に,断定的なニュアンスで話すような場合には,それを指摘できるかもしれない。あるいは,曝露の文脈以外でも不快な感情を回避しているような場合(例:恥ずかしく思っている体験を語るとき,急いで済ませようとする),それを指摘して回避をやめるよう促せるかもしれない。 このプロトコルでは,治療者がモジュールごとに費やすセッション数を調整できるので,患者のもつ特定の強みや弱みに合わせてどのように治療を進めるのがよいかを検討できる。たとえば,自己評価に苦しんでいる患者(人と接する状況での自分の振る舞いに対して否定的に考えてしまうことが,社交不安を悪化させている患者など)は,マインドフルで非断定的な感情への気づきの練習を通常より多く行

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