2473小児保健ガイドブック
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■■乳幼児期の言語発達をみる視点1.言語発達を形づくる前言語期(乳児期)発達の軸 言葉の出現前から,乳児は音声,表情,身振りなどによる表出を行う(表1).乳児期初期の発信は,主に空腹時や不快時の啼泣など生理的欲求に基づいた無意図的な形ではじまるが,養育者側が読みとり応じることを通して,乳児は徐々にやりとり(相互交渉)を認識していく.また養育者の応答を聴くことでフィードバック機構が働き,次第に母国語固有の音韻やモーラ(拍)の感覚が定着する.健聴乳児では,ほぼ生後6か月で母国語の基本的な音韻感覚が獲得される.日本語固有の特殊モーラや無声化母音の知覚,正確な聞き取りも,乳児期の日本語環境での聴覚的経験を経て可能となる. 生後4か月頃から養育者の視線の先に関心をもち,次第に養育者と同じものを注視し,かつ養育者をみる三項関係(共同注視)が成立する.乳児が他者の指差しに反応するには他者と関心を共有する意識だけでなく,外界への探索体験をあらかじめ経て,指差しで示される空間的な方向感覚と,自分の周囲に世界の広がりがあることを認識できている必要がある.さらに自発的な指差し行動の出現においては,自分の手指を道具ではなく記号的役割として用いており,言語使用の前提となる象徴機能の獲得を反映する.そしてただの音ではなく思索体系や対人交流の媒体としての言語の運用が可能となる.2.幼児期の言語発達のアウトライン 幼児期の言語発達について,概要を表2に示す.3.言語発達に関係する諸要因 視覚障害がある場合,見て理解する,見ながら確認することが難しく,注意対象の共有,場面と関連づけられたやりとりや文脈の理解などにしばしば困難を伴う. 聴覚障害がある場合,早期より十分な介入がなされない限り,言語発達ひいては集団適応・学業に及ぼす支障は著しい.軽度・中程度難聴は一見日常生活レベルのコミュニケーションに支障なく過ごせるため見逃されやすいが,発語の明瞭度が低い,小声や離れたところからの声が聞き取りにくい,騒がし86Essential point■乳児は喃語を発している段階から周りの大人のフィードバックを受けることで言語を習得していく.■言葉は複層的な発達と相互交渉の体験を基盤として育まれるものである.■難聴は軽度であっても介入の遅れが言語発達の支障につながるため見逃さないよう留意する.3言語発達心身障害児総合医療療育センター 木村育美各 論C乳幼児期Memo 1■特殊モーラ日本語のリズム単位はモーラとよばれ,基本的にかな一文字に対応する.拗音(「ゃ」「ょ」)は先立つかなと合わせて1モーラを形成するが,促音「っ」,撥音「ん」,長音「ー」は単体でリズム単位となり,特殊モーラとよばれる.日本語はモーラが重要な言語であり,特殊モーラの有無で大きく意味の違いが生じる.Memo 2■無声化母音はっきり声帯を震わせず,息だけで発音された母音のことをいう.「い」「う」が無声子音(カ・サ・タ・ハ・パ行の子音)に挟まれたときや文末に来たときが代表的である(「きつつき」の1文字目の「き」と3文字目の「つ」,「ありがとうございます」の末尾の「す」など).関連する制度・法律–

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