2484適正使用のための臨床時間治療学
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76  第4章 時間治療の実際―生体リズムと薬の使い方―時間治療の実際1.機序を考慮した時間設定 胃がんあるいは大腸がん治療で汎用される5-FUは細胞障害過程で,オロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(OPRT)あるいはウリジンホスホリラーゼ(UP)がその活性化に関与し,ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)が不活化に関与します.正常細胞におけるこれら酵素活性のうち,OPRTあるいはUPは休息期すなわち夜間睡眠時に低下しますが,DPDは夜間睡眠時に増加します.したがって夜間睡眠時に5-FUを投与した場合,正常細胞では5-FUは活発に代謝されて毒性の軽減が可能となります.一方,正常細胞での白金(Pt)の取り込みは日中活動期に低下し,Ptを処理する還元型グルタチオン量は活動期あるいは活動期後半で増加し,このため骨髄・血液毒性や粘膜障害などの細胞毒性も活動期投与で低下します.したがってPt製剤のオキサリプラチンは日中活動期後半の投与で毒性軽減が可能となります.2.進行大腸がんに対する時間治療の報告 5-FUおよびオキサリプラチンのピーク速度をそれぞれ4:00および16:00に調整した進行大腸がんに対する時間治療の初期の報告では,通常投与法と比較してオキサリプラチン毒性である末梢神経障害が抑制され,コースごとの5-FU濃度の40%程度の上乗せが可能で,奏効率の改善,化学療法後の外科的切除率の増加が確認されています.一方で,同様の時間治療と通常療法(FOLFOX2)の効果比較を行った第3相試験では10),男性に比較し女性で時間治療の効果増強あるいは毒性軽減が得られず,その原因として女性の正常細胞におけるDPD活性の低下による5-FUクリアランスの低下があげられ,正常‒がん細胞間較差が生じにくかったことが推測されています.3.大腸がん多発肝転移に対する時間治療の応用 大腸がん肝転移の治療のゴールドスタンダードは外科的切除ですが,診断時切除可能な症例は全体の10~20%程度であり大多数は切除適応となりません.切除不能な転移例の無治療での自然予後は3~10か月程度であり,化学療法単独では20~30か月程度ですが,化学療法後に肉眼的治癒切除が行えた場合,40か月を超える生存期間中央値が得られます.化学療法後に肝切除可能となるコンバージョン率は化学療法の奏効率と相関して向上することが知られています. 著者らは,5-FU,アイソボリン,オキサリプラチン,パニツムマブの4剤を使用した切除不能大腸がん肝転移に対する時間治療を応用した肝動注化学療法の効果を検討しており,オキサリプラチンを,10:00より22:00まで持続動注し16:00に投与速度が最大になるように設定し,22:00より翌日10:00まで5-FUと,アイソボリンの持続動注を行い4:00に投与速度が最大になるように設定し,24例を対象に5日間連日投与し,9日間休薬する方法で行っています(試験研究名:大腸がん肝転移に対するパニツムマブ併用サーカディアンクロノ肝動注非ランダム化オープンラベル第Ⅱ相試験,図1).試験エントリー前に行われた化学療法の平均施行ライン数,コース数はそれぞれ2.1±1.5ライン,16.6±12.3コースで,87%がサードライン以降の治療として本レジメンを施行したにもかかわらず,奏効率は45.8%,病勢制御率は67%と良好であり,コンバージョンにより肝切除まで到達した比率は33.3%と良好でした.一般に

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