2484適正使用のための臨床時間治療学
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2  第1章 体内時計のなぞ―生存するための戦略だった― POINT 生体は体内時計の階層構造をうまく利用し,生体機能の日周リズムを維持している.疾患発症,薬物活性や薬物動態は,体内時計と密接な関わりを持っている.体内時計を利用した創薬も取り組まれている.生体リズムを診断し操作するなど,至適投薬タイミングの設計を容易にする方法の開発が重要になっている.はじめに 体内時計の本体は,視神経が交差する視交叉上核(suprachiasmatic nucleus:SCN)に位置し,時計遺伝子により制御されています.時計遺伝子の機能と役割が生理学的側面より明らかにされつつありますが,今後の重要な課題として臨床応用があげられます.近年,医薬品適正使用の向上を目指し,薬物治療の個別化を指向した研究が活発に行われています.個体間変動要因の整理・体系化が進むことによりクローズアップされるのは個体内変動です.したがって,医薬品適正使用のさらなる充実を図るには,個体間変動に加えて個体内変動に着目した研究の充実が必至となります.こうした状況のなかで,医薬品の添付文書などに服薬時刻が明示されるようになってきました.その背景として生体機能や疾患症状に日周リズムが存在するため投薬時刻により薬の効き方が大きく異なることがあげられます(時間薬理学:Chronopharmacology)1-3).また薬の効き方を決定する薬の体内での動き方や薬に対する生体の感受性も生体リズムの影響を受けます.一方,測定技術の向上および薬物動態解析法の開発と関連してTDM(therapeutic drug monitoring)が発展し,投薬タイミングを考慮することにより薬の有効性や安全性を高めることも可能となってきました.他方,薬物治療を支えている重要な柱である製剤学的側面の1つがDDS(drug delivery system)です.その特色の1つとして放出制御の工夫は時間薬物治療を臨床の場に導入する際,魅力的でかつ有用な手段と考えられます.そこで,まず体内時計の起源と意義について紹介し,その後体内時計の分子機構の側面から,生理機能の日周リズムの成因としての時計遺伝子の役割,時計遺伝子を基盤にした薬物治療の可能性について紹介します.❶体内時計の起源と意義 体内時計は,進化の過程で10億年以上も前に備えたとされています.地球が自転する24時間の中で,環境の変化に応じて対応するための巧妙な仕組みです.体内時計は,真核生物のほとんどが持っています.例えば,開花に応じて,1時間ごとに描かれているリンネの花時計は,スウェーデンのリンネ博士が18世紀に提唱したものです.このように生物の多くは,時系列に沿って1日を送っていますが,ヒトも体内時計を持っています.ヒトには,体温,血圧,ホルモンの分泌量が変化するなどの日内変動があります.その結果,生理機能や運動機能が高まる時体内時計のなぞ-生存するための戦略だった-第1章

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