2484適正使用のための臨床時間治療学
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70  第4章 時間治療の実際―生体リズムと薬の使い方―Ⅰ悪性腫瘍第4章 時間治療の実際―生体リズムと薬の使い方―section生体リズムの破綻による病態形成 POINT 正常時には中枢時計である視交叉上核から末梢時計である各臓器や細胞のサーカディアンリズム(概日リズム)が階層的に制御されている.生体リズムの破綻により,コルチゾールや免疫細胞などのサーカディアンリズムが変容し,発がんリスクの増加やがん患者の予後に悪影響を及ぼす.がん化により中枢から末梢の生体リズム制御機構が変化する.がん化により末梢細胞内環境における生体リズムの制御機構が変化する.❶正常細胞の分子時計機構 生体の中で個々の細胞は,DNAの合成,細胞の分裂を周期的に繰り返すことにより生体の恒常性を維持しています.このような細胞のリズミカルな動きと関連してmRNAの発現や蛋白合成にも周期的変化が認められ,その表現型として生体の種々の生理機能も時間とともに周期的に働いています.また生体リズムの破綻が疾病の成因や状態を反映することも治療上重要です.健常人の骨髄細胞のDNA合成能には,活動期に高値を,休息期に低値を示す有意な日周リズムが認められます.同様の所見は,直腸粘膜細胞でも認められます.❷がん細胞の分子時計機構 がん細胞のDNA合成能にも日周リズムが認められますが,正常細胞とリズムの位相が異なる場合があります.またがん化により中枢から末梢の生体リズムの制御機構や末梢の細胞内リズムの制御機構が変容します.さらに生体リズム異常や時計遺伝子の変異により発がんリスクが高まります.❸がんの時間治療 一般に抗腫瘍薬の効果は,薬物動態,薬力学およびがん細胞の感受性により規定されます.また感受性は,がん細胞の増殖状態,細胞周期により異なります.細胞のリズミカルな動きと関連してmRNAの発現や蛋白合成にも周期的変化が認められます.生体に存在する細胞動態および薬物動態の日周リズムを考慮することにより,抗腫瘍薬の効果を増強し,有害作用を軽減することを目的とした時間薬物治療が試みられています.

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