2488実践 小児てんかんの薬物治療
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する(後述).蛋白結合率が高い薬は肝で代謝されるので,肝障害では減量を考慮する必要があり,蛋白結合率が低いものは腎で排泄されるので,腎障害では減量を考慮する必要がある(表4-5)3),7)~10).3.相互作用a.抗てんかん薬同士(表4-6)3),11)~13)ほかの抗てんかん薬の追加,増量,変更により中濃度は蛋白結合型と遊離型をあわせた総濃度を測定している.蛋白結合率が高い抗てんかん薬では,血清蛋白濃度が減少する病態(妊娠,低蛋白血症,肝障害,腎障害など)では遊離型が増え,投与量が変わらなくても効果と副作用が増強する.あるいは,血中濃度が下がっても効果は変わらない.また,蛋白結合率は,母親が服用している抗てんかん薬の母乳への移行に最も大きく影響表4-4 薬物動態に影響を与える要因年齢と薬物動態 ・新生児を除くと若年ほど血中濃度のT1/2,Tmaxは短く,同じ血中濃度を得るのに要する用量(mg/kg)は多くなる.思春期以降は成人と同様になる・高齢者では薬物代謝が低下し,T1/2とTmaxは長くなるので,通常量では血中濃度が上がりすぎ,低容量にする必要がある蛋白結合型と遊離型 ・抗てんかん作用を有するのは遊離型であるが,遊離型は商業ベースでは測定できず,血中濃度は蛋白結合型と遊離型を合わせた総濃度を測定している・血清蛋白濃度が減少する病態では遊離型が増え,血中濃度は変わらなくても抗てんかん作用が強まる,あるいは副作用が出る恐れがある抗てんかん薬同士の相互作用 ・抗てんかん薬を追加・変更時に,ほかの抗てんかん薬の血中濃度の上昇による効果増強や副作用,低下による発作増加が起こりうる・酵素誘導薬剤(PB,PRM,CBZ,PHT)はほかの薬の濃度を下げることが多く,STPはほかの薬の濃度を上げることが多い・多剤併用の場合,併用薬の量を変えるとほかの薬の血中濃度も変化する・血中濃度の増減だけでなく,T1/2は相互作用で血中濃度が低下する組合わせでは短縮,上昇する組合わせでは延長する抗菌薬との相互作用 ・CBZはマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン,エリスロマイシン等)で血中濃度が上昇し,ふらつき,眠気を生じる・VPAはパニペネム・ペタミプロン,メロペネウム,イミペネム・シラスタチンで血中濃度が激減し,発作が頻発する危険がある肝機能低下,腎機能低下・肝,腎または両者で代謝される薬はその機能低下時には血中濃度が上がり,中毒の危険があり,減量を考慮する.腎障害時:KBr,GBP,VGB,LEV,TPM,肝障害時:CZP,CLB,STP,CBZ,PHT,LTG,VPA,RUF,PER,ESM,両者とも:ZNS,PB,PRM,LCM(表4-5)消化器疾患・胃潰瘍や急性胃腸炎などは薬の吸収を低下させ,血中濃度が下がる.ただし,ファモチジン以外のシメチジン,エソメプラゾール,オメプラゾールなどの抗潰瘍薬はPHT, CBZ,CLBの血中濃度を上げる(表4-9)1)~4),14)妊 娠・妊娠すると血中濃度は低下する.特にPHT,PB,VPA,LTG,LEVでは大幅に低下する.PHT,PB,VPAは蛋白結合型が減少し,総血中濃度(結合型+遊離型)は減少する・遊離型はPHT,PBでは減少するが,VPAでは増加する.CBZは総血中濃度,遊離型ともにあまり変化しない食事との関係 ・抗てんかん薬の血中濃度は,空腹時は食後より速く,高く上昇する.ただし,VPA徐放剤は,空腹時は食後より約1.3倍遅くなる食物との相互作用 ・グレープフルーツの外の皮となかの包皮に多く含まれているフラノクマリン類は肝の薬物代謝酵素CYP3A4を阻害するため,果皮ごとしぼったグレープフルーツジュースではおもにこの酵素で代謝される抗てんかん薬の血中濃度が上昇する.CBZでは39%上昇し,CLB,PER,ESM,ZNSでも血中濃度が上昇する可能性があり,副作用の恐れがあるが,CBZほどではない.しかし,ほかの抗てんかん薬では問題にならないので,むやみにグレープフルーツを制限する必要はない・CYP3A4を阻害する物質は外の皮となかの包皮に含まれているので,皮をむいた実だけならどの抗てんかん薬でも問題はない(第14章1参照)合理的な多剤併用・それぞれの発作型に対する薬を組み合わせるが,抗てんかん薬の相互作用を考慮し,可能なら作用機序の異なる薬を組み合わせ,そのうえで個々の薬の血中濃度を十分に上げる(須貝研司:てんかんの治療-てんかん症候群の治療. 佐々木征行,他〈編著〉:国立精神・神経センター小児神経科診断・治療マニュアル 改訂第3版.診断と治療社,2015:290-303/須貝研司:血中濃度の意義.Clinical Neuroscience 2017;35:835-839より作成)32

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