2489小児血液・腫瘍学 改訂第2版
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 AYA(思春期・若年成人,15歳以上39歳以下)世代は,身体的精神的に成長発達し自立して社会人として活躍し始める重要な時期である.患者は,闘病中およびその後に就学,就労,結婚,出産など人生を決める重要な出来事と向き合う機会が多く,世代特有の心理社会的課題がある.それらは,AYA世代を通じて共通なものだけでなく,A世代とYA世代で異なる課題もある. 特にA世代は,エリクソンの心理社会的発達理論によれば,自己同一性の確立の混乱期にあり,自分の存在や生き方など自身について思い悩む時期である.自己同一性の確立は個人差が大きく,学校や職場などさまざまな社会生活を通して自分の居場所を見つけることが,自己同一性の確立に重要である.そのような時期に突然にがんに罹患することは計り知れないストレスであり,自己の混乱は不可避と考えられる.それぞれに個別性が高く,本人の自立度を勘案しながら丁寧な対応が望まれる. 厚生労働科学研究「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」で行われたAYA世代のがん患者へのアンケート調査によると,悩みの上位は自身の将来,仕事,経済面,診断・治療,生殖機能であったが,15~19歳では,学業や体力の維持・運動が自身の将来に次いで上位であり,この年齢層の特徴である1)(表1).患者が望む情報や相談の内容は多岐にわたるが,その多くが満たされておらず,多様なアンメット・ニーズが存在する1)(図1).入院中においては,同世代の患者との出会いの場やインターネット環境を望む声が強く,また,若年ほど食事に不満が強い傾向がみられる.AYA世代のがん患者は,同世代の患者が周りに少ないため悩みや情報を共有しにくく,孤立しやすい傾向にある.また,治癒困難な状況においては,AYA世代の88%が予後告知を望み,62%が終末期の療養場所として自宅を希望している1). AYA世代のがん患者が抱える課題を解決するために,第3期がん対策推進基本計画(平成30年3月策定)において初めてAYA世代のがん対策が明記された.それにより,生殖機能に関する情報提供と対応の体制整備,長期フォローアップの体制整備,教育環境の整備,就労支援に関する連携強化,緩和ケアの連携に関する取り組みが行われている.厚生労AYA世代の特徴AYA世代のがん患者が抱える課題AYA世代のがん対策第Ⅰ部 総論188表1◆AYAがん患者の年齢階層別の治療中の悩み(上位5つ)全体(n=213)15~19歳(n=33)20~24歳(n=22)25~29歳(n=33)30~39歳(n=119)1位今後の自分の将来のこと60.9%今後の自分の将来のこと63.6%今後の自分の将来のこと72.7%仕事のこと63.6%今後の自分の将来のこと57.1%2位仕事のこと44.0%学業のこと57.6%仕事のこと50.0%今後の自分の将来のこと63.6%仕事のこと47.1%3位経済的なこと41.5%体力の維持,または運動すること45.5%経済的なこと45.5%経済的なこと48.5%経済的なこと43.7%4位診断・治療のこと36.2%診断・治療のこと42.4%診断・治療のこと40.9%不妊治療や生殖機能に関する問題48.5%家族の将来のこと42.0%5位不妊治療や生殖機能に関する問題35.3%後遺症・合併症のこと36.4%後遺症・合併症のこと31.8%診断・治療のこと39.4%不妊治療や生殖機能に関する問題36.1%(清水千佳子,他:厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究.(研究代表者:堀部敬三)平成28年度総括・分担研究報告書,2017より引用)小児がん2E AYA世代のがんAYA世代がんの包括医療第2章

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