2489小児血液・腫瘍学 改訂第2版
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7特発性肺ヘモジデローシス 肺毛細血管から出血を繰り返し,その結果としてHbの代謝産物であるヘモジデリンが肺組織に沈着した状態を総称した症候群である.本症はまれで,小児100万人当たり1.2人で,10歳未満に発症することが多い.症状は肺出血による呼吸器症状と鉄欠乏性貧血であるが,出血量が少量のときは呼吸器症状が明らかでないこともある.体重増加不良や原因不明の貧血を主訴とする場合や,治療反応不良な鉄欠乏性貧血をみた場合は,本症も疑う必要がある.ミルクアレルギーに起因した発症も報告されている(Heiner症候群).肺出血を繰り返すたびに組織傷害が進行し,肺線維症に至る.8悪性腫瘍関連(腫瘍内出血・移植後出血性膀胱炎) 巨大かつ血管豊富な腫瘍に対する腫瘍内出血もoncologic emergencyに該当する.巨大な腎明細胞肉腫(clear cell sarcoma of the kidney:CCSK)の腫瘍内出血の自験例を示す(図2). また,造血細胞移植後の難治性出血性膀胱炎も貧血をもたらし,時に輸血を要することがある.出血性膀胱炎は,対症的な保存的治療にて大部分は2~3週間で治癒するとされるが,尿路閉塞症状が著しい場合には尿管ステント留置,尿管拡張術などが必要となる.重症例には経尿道的電気凝固術(transure-thral coagulation:TUC)や両側水腎症に対して,一時的な腎瘻造設術,膀胱全摘除術などが実施されることがある.出血性膀胱炎の原因としてBKウイルス,サイトメガロウイルス(CMV),アデノウイルス(ADV)が知られているが,わが国ではADV B11の頻度が高いことが報告されている.ADVの抗ウイルス薬としては,cidofovir(CDV)があげられるが,わが国では未承認薬である.また最近,CDVの脂質結合体で,より高活性の抗ウイルス効果をもち,CDVに認める腎毒性を回避できるbrincidofovirが開発された.今後の日本での製造承認が期待される5). 原疾患の治療が必須で,予後は原疾患によってさまざまである.ここでは輸血療法について示す6).1輸血療法4) 赤血球濃厚液を使用する目的は,貧血を改善して末梢循環系へ十分な酸素を供給することにある.1)適応 小児では基本的には「血液製剤の使用指針」に従う.表1にその抜粋を示す.成人ではHb 7 g/dL未満が輸血を行う1つの目安とされている. 輸血以外の方法で治療できる疾患(鉄欠乏性貧血など)には,原則として輸血は行わない.実際の赤血球輸血の適応はHb値のみでなく,全身状態,症状の有無,患者の活動状況,貧血の進行度などを考慮に入れることが大切である.慢性貧血に対する輸血でHb値を10 g/dL以上にする必要はない.a.慢性出血性貧血 消化管や泌尿生殖器からの少量の長期的な出血による貧血は,原則として輸血は行わない.日常生活に支障をきたす循環器系の臨床症状(労作時の動治療・予後A 赤血球の異常 11.出血性貧血403血液・造血器疾患第1章AB図1◆上腸間膜動脈に対する経動脈カテーテル塞栓術()図2◆診断時に比べ腫瘍の増大と腫瘍内出血が認められた

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