2489小児血液・腫瘍学 改訂第2版
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 急性リンパ性白血病(ALL)とは,骨髄を中心とする全身の臓器においてリンパ芽球が腫瘍性に増殖する疾患である.悪性リンパ腫においても骨髄浸潤がしばしば認められ,ALLとの鑑別診断が問題となるが,芽球比率が25%以上の場合をALL,25%未満の場合を悪性リンパ腫の骨髄浸潤と定義する. 日本小児血液学会(現 日本小児血液・がん学会)による2006~2010年の疾患登録をまとめたHoribeらの報告1)によれば,国内における20歳未満の小児ALLの年間発症数は約500例である.この登録は国内発症例の90%以上が把握されていると推測される.男女比は1.34:1と男児にやや多く.発症年齢は1~4歳に大きなピークがある.免疫学的分類では,B前駆細胞性が85.6%,T細胞性が10.9%,成熟B細胞性が2.4%,不明が1%であった.T細胞性は10歳以上の年長児では約20%を占めていた.1ALL細胞の発生起源 一卵性双生児に別々に発症したALLの染色体転座の切断点がDNAレベルで完全に一致したという報告や,Guthrie試験に使用した新生児期の血液の解析により生後数か月から数年を経て発症したKMT2A‒AFF1およびETV6‒RUNX1型ALLにおいて新生児期にすでに融合遺伝子が検出されるという報告などから,小児ALLの少なくとも一部は胎児期に起源をもつことが明らかになっている.2宿主側因子および環境要因 Down症候群などの染色体異常や,毛細血管拡張性運動失調症などの免疫不全症において白血病の発症頻度が高いことは古くから知られてきた.近年,次世代シークエンサーの導入によりB細胞の分化にかかわるPAX5やETV6のgermline変異による家族性ALLの報告や,低2倍体ALLの一部にがん抑制遺伝子であるp53遺伝子の生殖細胞系列(germline)変異がみられるという報告,T細胞性ALLと急性骨髄性白血病(AML)のいずれにも進展し得るRUNX1の変異など,ALLの発症にかかわる遺伝子のgerm-line変異が同定されてきている. さらに,正常variantである遺伝子多型(polymor-phism)が,白血病発症の危険因子となることも明らかになってきた.これまで報告されてきた遺伝子多型のうち,ARID5BやIKZF1の多型は共通して同定されており,そのほかCEBPE,CDKN2A,PIP4K2A,GATA3等の多型も報告されている.特にARID5Bは小児に多い高2倍体のALLの発症との関連が強いとされている.またIKZF1の変異は後述するように予後との強い相関が報告されており,小児ALLにおいて同一の遺伝子が一方ではgermlineの多型が疾患感受性を規定し,他方では体細胞変異が予後を規定するなど,非常に興味深い事実が明らかになっている. ALL発症にかかわる環境要因としては,放射線被ばくやベンゼンなどの化学物質へのばく露が知られている.乳児ALLにおいては,フラボノイドや殺虫剤,ハーブといったトポイソメラーゼII阻害作用をもつ物質への母体内でのばく露が危険因子となることが報告されている.年長児,特に好発年齢である2~6歳のALLでは,感染症の関与についての仮説が提唱されている.すなわち,乳幼児期に感冒などの感染症へのばく露が減少することが,出生時のTh2優位からTh1優位への免疫系の移行を遅らせ,インターフェロン‒γやNK細胞を介する異常クローンの排除に支障をきたすと想定されている. 以上のように小児ALLは,遺伝子変異や多型など宿主側の遺伝的素因を背景として,母体内または出生後の異常クローンの発生に始まり,発がん性物質や感染症へのばく露といった環境要因が組み合わさって多段階的に発症すると考えられる.1白血病細胞の増殖による徴候 頻度の高い徴候としては,発熱(いわゆる腫瘍熱)や骨痛(特に下肢痛)があげられる.そのほか,白血病細胞の浸潤による徴候として肝脾腫,リンパ節腫脹,皮疹,精巣腫大などがある.縦隔腫大による呼吸困難,上大静脈(superior vena cava:SVC)症候群定義,概念疫学病因臨床徴候第Ⅱ部 各論(疾患)482小児がん1A 造血器腫瘍急性リンパ性白血病第2章

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