2508プライマリ・ケアに活かすがん在宅緩和ケア
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第Ⅰ章 在宅でしばしば出会う緩和が困難な患者膀胱留置カテーテルでQOLが向上したCさん(70歳代女性)事例3大岩 : 短い期間に薬の量が増えたことも影響しているかもしれません.フェントス・テープ ® 3 mgは,換算するとオキシコンチン®60 mgになるので,入院前に服用していたオキシコンチン®錠30 mgの2倍です. 長男 : 薬を減らすことはできますか ?大岩 : 薬の影響だけではありませんが,今日はフェントス・テープ®を2 mgにしましょうか. Cさん : お願いします.<X Dr.との対話>X Dr. : Cさんは疼痛コントロール目的で入院しましたが,フェントス・テープ®を増量しても痛みが緩和しなかったのは,どうしてですか? 大岩 : がんの最終段階にある患者の痛みが強くなる理由は,ADL の低下が関与していることが多いと考えています.ベッドから起き上がれないのはがんの進行によるものとCさんは気づいていて,そのことが痛みの増強に影響していたと考えています.X Dr. : ベッドから起き上がれないのは,がんの進行による全身状態の低下によるものかもしれませんが,そのことと痛みが強くなったことは関係があるのですか?大岩 :あとで触れますが「痛みの感じ方に影響を与える因子」(Q03-表1)にあるように,死が近づいている不安は痛みの感じ方を強めます.ところで,患者があまり「痛い」と言わない場合でも,みている家族から「痛そうです」「痛がっています」と言われることはありませんか?X Dr. : よくあります.Cさんの長男も「痛そうでみていられなくて」と話しています.今までは,薬を増やしたくなくて患者は痛みを我慢しているのだろうと思っていました.Cさんに「痛みはどうですか」と聞いていませんが,何か理由がありますか? 「痛みはどうですか?」という質問で話題を限定しない大岩 : 長男が「痛そうで…」と話したときに,Cさんは「トイレが…」と言いかけました. Cさんは,痛みよりもトイレの相談をしたかったのではないかと考えていました. X Dr. : だから「痛みはどうですか?」ではなく「大変ですか?」と,聞いたのですか? 大岩 : Cさんが入院中の話をされたときに,「どこが痛かったのですか?」と,聞きました. X Dr. : そうでした.Cさんに「痛みはどうですか?」と聞けば「痛いです」と言うと思います. それでは入院中と同じで,薬を増やすしかありません. 大岩 : 「痛みはどうですか?」と聞かなかった一番の理由は,話題を痛みに限定せず患者に自分の “気がかり”を自由に話をしてもらいたかったからです.実際に,Cさんは「喉が渇く」と言っていました.痛みについては「こうして横になっていれば,痛みはないです」と話されていました.「こうしていれば痛くないです」という自分なりの対処法です.これを聞き逃してはいけません.痛みがあるときにすぐ薬を考えるのではなく自分で工夫できることがあるのは安心につながります.「とても良いです」とはっきり伝えて,痛みの対処法として患者が自分で意識できるようにしています. X Dr. : Cさんは,入院すれば元気になって歩けるようになると期待していたのでしょうか? 大岩 : 期待していたかもしれません.長男も痛みさえなければ動けるようになってトイレにも 行けて家事もできると期待したのではないでしょうか.しかし患者は体力の低下を自分で感じますので,回復は難しいと気づいていることが多いです.9

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