2508プライマリ・ケアに活かすがん在宅緩和ケア
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44痛みの心理社会的な要因に,プライマリ・ケア医(かかりつけ医)はどのように関われば良いのでしょうか?X Dr. : 在宅がん患者の痛みの心理社会的な要因とは具体的にどのようなものがありますか?大岩 : 患者によって違うので一概には言えませんが,がん治療のことや病状の進行に伴う痛みなどの症状と生活,介護の問題が大きいです.X Dr. : がん治療についての悩みですか?大岩 : 緩和ケアに移行した患者は,がん治療によって期待していた結果が得られなかった患者です.最初から治療を受けていない人も含めて自分の選択が正しかったのかを考え続けています.X Dr. : 何回も同じことを聞かれることがあります.大岩 : 納得できる話が聞けないからでしょう.在宅緩和ケアが開始されてからも患者と病気の話ができなかった事例を紹介します(事例9).Q06-〔事例9〕 「痛い」は家族に向けたSOSだったIさん(80歳代男性) 肺がんで両側のがん性胸膜炎があり,胸痛がありましたがオプソ内服液®を服用して落ち着いていました.訪問診療を開始して1週間が経過した頃に,夜に「痛い」と言って家族を起こすようになり,家族は困っていました. しかし,訪問診療のときに私たちには痛いとは全く言わなかったので,家族に向かって発信したSOS と感じ,ご家族の話を聞く時間を作りました. ご家族は「こんな痛みがいつまで続くのか」「いい加減にして」という気持ちもあったそうです.Iさんがあまりにも辛かったからなのか,苛々したときに「『自分のことしか考えないのなら,入院して!』と言っちゃいました」と話をしてくれました.ご家族に,ご本人が気持ちの上でどれだけ追い込まれているかをお伝えしました. ご家族は理解してくれて,夜中に起こされても「お父さん大変なんだ」と思うようになったそうです.それからは,夜中に「痛い」と言うことも家族を起こすこともなく穏やかになり,数日後に亡くなりました.がん治療の経過と痛みとは関係がないと思っていましたXDr. : 医療用麻薬を増やすとか,鎮静剤を使うとか,したのですか?大岩 : 処方は全く変えていません.正確な理由はわかりませんが,亡くなった後にご遺族(妻)が診療所にみえて,「手術の適応はなく,高齢だからと化学療法もできないと言われてしまいました.几帳面な性格ですから『20年来真面目に検診を受けてきたのに何故!』って,手術ができない理由の説明がないことに納得できなくて,ずっと怒っていました」と話してくれました.X Dr. : 在宅緩和ケアが始まったときにIさんからは聞いていなかったのですか?大岩 : Iさんは病気の話をしたかったと思います.最初にお会いしたときに「もう治療はないので,進行して死ぬのはわかっています.覚悟はできています」と話されましたが,治療経過や病気の話はされませんでした.X Dr. : それまでの経過に納得していないと,死を覚悟するのは難しいのでしょうか?Q06

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