2508プライマリ・ケアに活かすがん在宅緩和ケア
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45第Ⅱ章 在宅がん患者の〝痛み〞に関わる痛みの心理社会的な要因に,プライマリ・ケア医(かかりつけ医)はどのように関われば良いのでしょうか?Q06大岩 : 遺族(妻)の話によると「病院で先生に何度も聞いて,できないものはできないと言われていたので,『もうその話はしないで』って,私たちが止めていました」という経過があったようです.Iさんは納得できないまま,死を覚悟しなければいけないと自分に言い聞かせていたのではないでしょうか.X Dr. : がんを治すための治療を何もしてもらえないことが,Iさんの悔しさや怒りだったことは想像できます.死んでも死にきれない,という思いだったのかもしれませんね.大岩 : 診療の最初に病気の話ができなかったことで,Iさんの悔しさや怒りを静めることができませんでした.夜に「痛い」と言って家族を起こしていたのは,悔しさや怒りを言葉にできない辛さだったと考えています.X Dr. : がんの治療はできなくても,悔しさや怒りの気持ちをわかってもらえたら,違ったのでしょうか?大岩 : この気持ちをわかってくれよというメッセージを発していたと思います.だから,ご家族が「お父さん大変なんだ.悔しいね.」と思うようになって,自然にIさんへの言葉かけも優しく思いやりのある対応に変わったのでしょう.X Dr. : 家族の変化にIさんは気づいていたのでしょうか?大岩 : 患者はそのような変化にとても敏感なので,自分の思いが通じたと感じて落ち着けたのだろうと思います.Iさんが真面目に検診を受けていた事実や治療を受けられない理由に納得していなかったことを訪問中に,生きているときに知っていれば,少しは違う経過になったのかと悔やまれた患者です.X Dr. : がん治療のことと痛みとは関係がないと思っていました.大岩 : がん治療を含めて,がんの診断を受けたときからの患者のもろもろの体験は,痛みなどの症状に影響を与える心理社会的な要因となります.がん以外の疾患でも同じような体験はあるのですが,がんが大きな問題になるのは1つひとつの問題の行き違いが死と直結するからです.“気がかり”について一緒に考え相談相手になることが,何よりの症状緩和になるX Dr. : プライマリ・ケア医として,患者の色々な思いにどう関わったら良いのでしょうか?大岩 : 私は開業して緩和ケアに特化した診療を20年間続けてきました.そして,たどり着いたのは,解決の道筋を示すことよりも,がんの最終段階の患者が抱えているあらゆる“気がかり”について一緒に考え相談相手になることが何よりの症状緩和になるということです.X Dr. : 治療を受けていた病院医師への信頼は大きいので,治療が終わっても併診を続けている患者が多いです.大岩 : 患者の認識や思いは病院の医師の言葉に左右されます.患者は病院医師の言葉を重く受け止めるのですが“気がかり”は解消されていないことが多いです.X Dr. : どうしてですか?大岩 : 医師の話は患者にとって重いのですが,医師が意図したように患者に伝わるのは難しいのです.中途半端な理解は“気がかり”をさらに大きくします.「何を言われたかはわかるけど,それが自分にとってどういうことなのかがわからない」とか「病院では,余計な話をしないほうが良いと思って,わからないことがあってもなかなか聞けない」と話す患者は少なくありません.プライマリ・ケア医のほうが病院の医師よりずっと自由に話ができますから.できれば病院主治医から言われたことを患者から聞いて,その意味を患者と共有できたらいいですね(コラム2参照).

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