2509産婦人科医療裁判に学ぶ
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36第2章 事例集 平成28年8月,乳腺外科医師が乳腺腫瘍切除術後に患者の乳首を舐めるなどわいせつな行為をしたとして,逮捕・勾留されました.本件は,乳腺外科医師の実名入りで報道され,ネット上では被害者とされる女性患者についての様々な情報が流されるなど,耳目を集めました. その後に,乳腺外科医師は準強制わいせつ罪で起訴(求刑懲役3年)されましたが,裁判(第1審)では,無罪が言渡され,検察が控訴したために,現在,東京高等裁判所に係属中です.裁判(第1審)では,女性患者の証言の信用性(術後せん妄の影響の有無を含む),アミラーゼ鑑定・DNA定量検査の信用性がおもな争点となりました. 女性患者の診療を日常的に行う産婦人科医師にとって,非常に関心が高いと思われる本件について,結論として無罪との判断を示した第1審判決を概説します. なお,その後検察側が控訴し,控訴審では,有罪との判決が出されました. 2021年11月現在,上告中で確定していません.1.関係する人物等(表1) 病院Y:東京都所在,特定医療法人. 患者V:31歳女性患者,右乳腺腫瘍の診断で右乳腺腫瘍切除術(本件手術)を受ける予定で,平成28年5月10日にY病院に入院. 医師X(被告人):Y病院に非常勤外科医として勤務,Vの外来主治医で本件手術を執刀. 医師A:本件手術で手術助手を務めるY病院外科部長,病棟主治医. 医師B:本件手術の麻酔科医師. 看護師C,看護師D,看護師E,母親W,上司Z.はじめに事案の概要民事と刑事,行政処分1.刑事事件乳腺腫瘍切除術後の女性患者にわいせつ行為をしたとして,乳腺外科医が準強制わいせつ罪に問われた事例〔東京地裁平成31年2月20日判決(最高裁で審理中)〕 乳腺腫瘍切除術後の女性患者に対し,術者であった乳腺外科の男性医師が,準強制わいせつ罪に問われた刑事事件で,第1審の無罪判決について紹介しています.第1審では,術後せん妄による性的幻覚とする被告人側の主張を容れ無罪判決となりましたが,その後の控訴審では被告人側の主張は排斥され有罪との判決が出されました.2021年11月現在,最高裁に上告中で確定していません. 異性の患者を診療する際の留意点,術後せん妄対策や術前の説明について,今一度検討しておくべきことが示唆されます.:乳腺腫瘍切除術,術後せん妄,女性患者,わいせつ行為,準強制わいせつ罪1Key words

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