2509産婦人科医療裁判に学ぶ
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38第2章 事例集1.争 点 事件性=医師Xが,Vの左乳首を舐め,吸った事実が認められるか否か.具体的には,以下の通りです.争点1:Vの証言の信用性争点2: アミラーゼ鑑定およびDNA型鑑定の信用性,証明力2.争点に対する判断1)争点1について①信用性を肯定する事情 裁判所は,Vの供述の信用性を肯定する事情として以下をあげました. ・ 核心部分について具体的で迫真性に富んでいること ・供述の一貫性があること ・ 客観証拠(本件メッセージ1・2など)と符合すること ・本件手術後の経緯と矛盾しないこと②信用性を否定する事情 裁判所は,Vの供述の信用性を否定する事情として以下をあげました. ・ 警察官調書に記載されていないエピソード(左乳首を触ると唾液がべったりとついていたこと)があり,後からつけ加わったエピソードではないかという疑いがあること ・ それほど広いと言えず満床の本件病室内で,カーテンで仕切られているとはいえ,関係者の出入りは自由で,実際にも手術直後で何かと看護師らの出入りのあった本件ベッド脇において,ナースコールを握らされているVの左乳首を舐めたり吸ったりし,さらには母親Wが近くにいることが容易に想定される状況下で,Vをみながら自慰行為をしていたということになり,特に自慰行為の結果として射精に至った場合,医師Xとしては周囲に事情を説明することがおよそ不可能な状況に陥ることにもなりかねないことから,Vの証言するところの被害状況は,かなり異常な状況と言うべきものであること③Vの証言の信用性についての誓良的判断 上記の①,②を踏まえて,裁判所は,Vの証言には,信用性に疑問を生じさせる方向に作用する事情がないとは言えないが,核心部分に直ちに影響を与えるものとは言えず,犯罪現象は,一定の異常な状況下で発生することもまれでないことからすれば,信用性を決定的に否定する事情とは言えず,Vの証言の信用性は,な裁判所の判断14:45~15:30・看護師Eは,本件ベッド脇に7~8回行った・ 医師Xは,本件手術後,本件ベッド脇に2回行った(1回目:本件ベッドを囲むカーテン内で看護師Eと会った.2回目:本件ベッドから離れる際に,カーテン内に入ってこようとした看護師Eとすれ違った.カーテン内に医師XとVしかいないという機会があった可能性あり).この間に,本件病室内に本件ベッドの斜め向かいのベッドにいた患者Fには,Vの声が聞こえたことがあった・ Vは,看護師による血圧測定や検温を記憶していないが,痛み止めの点滴をすると声をかけられたことは記憶している.Vは,看護師から「痛いですか」と聞かれて「痛い」と答えたことは記憶しているが,聞かれてもいないのに自分から「痛い」と言ったことは記憶していない.Vは,自分が被害にあったとしてナースコールを押した時より前に,ナースコールを押したという記憶はない16:17Vは個室に移されたその後上司ZがVに事情を聞いて110番通報し,まもなく警察官が臨場17:37女性警察官がVの左胸乳頭部付近から,鑑識用のガーゼを湿らせて微物採取(→科捜研において,アミラーゼ鑑定,DNA型鑑定が行われ,アミラーゼ鑑定陽性,医師X 1人分のみのDNA型が検出)19:30V退院 表1  つづき

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