2533術中脳脊髄モニタリングの指針2022
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108B 各 論で,聴神経腫瘍をはじめとする小脳橋角部腫瘍でこの指標を用いるのは注意が必要である5).聴力低下がないとされている症例でも,摘出前のBAEPで異常を示す症例もある.腫瘍性病変では,術前よりさまざまな程度に蝸牛神経が障害を受けているので,一様に手術開始時からのV波の変化を単純に指標とするのは問題である.健側に問題がないなら,健側との比較が指標となりうる8).6)V波潜時延長・振幅低下のメカニズム 手術中に聴力障害をきたす原因としては,①蝸牛神経への直接の損傷,②(小脳の牽引に伴う)神経への間接外力,③血流障害などが考えられており,これらの要因によりBAEP波形は変化する.顔面けいれんに対する微小血管減圧術中では,小脳の牽引解除によりV波振幅低下が改善した例では,聴力が温存され,振幅低下の回復が悪い例では,聴力悪化を認めている6).V波だけでなくI波の変化を認めた症例では,内耳道動脈の血流障害が原因とされている9).聴神経腫瘍手術では,V波がいったんは消失したが,最終的に確認できた場合は,蝸牛神経の微小循環不全が生じているため,血管拡張薬や循環改善薬の投与が,術後の聴力温存に有用であるが,不可逆的なV波消失は,蝸牛神経への機械的な損傷があるので,循環改善薬の投与による効果は期待できない10).いずれの手術でも,モニタリングの指標とする所見(V波潜時延長や振幅低下など)があった場合には,術後の聴力障害を回避するには,まず手術操作を中止しBAEPの所見が回復するかどうかを待つ必要がある.脳動脈瘤術中のBAEPは,椎骨脳底動脈系の血流障害による脳幹障害の指標になるが,小脳や後大脳動脈領域については評価ができない.また脳底動脈でも穿通枝の閉塞によっては,聴覚路に影響を与えない場合もあるので他のモニタリングとの併用が必要である.7)症例呈示a)左顔面けいれんに対する微小血管減圧術例(図21) 刺激および記録条件は図20と同じ.手術開始時に比べV波の1 ms潜時延長があり,手術操作を中断.潜時延長は0.4 msまで回復したので,手術を再開.手術終了時のV波潜時延長は0.2 msであった.術後聴力障害はなかった.b)左聴神経腫瘍(図22) 刺激および記録条件は図20と同じ.術前聴力は米国耳鼻咽喉科頭頸部学会(American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Sur-手術開始手術終了時顕微鏡操作開始V波潜時延長V波潜時回復0.25 μV5 msV左顔面けいれんに対する微小血管減圧術中BAEP波形(V:V波)図210.25 μV5 ms手術開始手術終了顕微鏡操作開始腫瘍摘出中腫瘍摘出終了V左聴神経腫瘍摘出術中BAEP波形(聴力温存ができた例)(V:V波)図22

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