小児チック症診療ガイドライン診断と治療社 | 書籍詳細:小児チック症診療ガイドライン
日本小児神経学会 監修
チック症診療ガイドライン策定ワーキンググループ 編集
初版 B5判 並製 88頁 2024年02月15日発行
ISBN9784787825650
定価:3,300円(本体価格3,000円+税)冊
短期間で軽快,消失する軽症例から,生活に支障をきたすトゥレット症とよばれる重症例まで幅広い症状をもち,子どもの5~10人に1人は経験するありふれた疾患であるチック症.本書は日本で初のチック症診療ガイドラインであり,チック症診療に携わる一般小児科医,小児神経専門医,児童精神専門医はじめ,そのほかの医療従事者,教育関係者にも必携の1冊です!
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
発刊にあたって
序文
Introduction
小児チック症診療ガイドライン 作成組織
小児チック症診療ガイドライン 作成過程
ガイドラインサマリー
略語一覧
第1章 総論
1 疾患トピックの基本的特徴
COLUMN Yale global tic severity scale(YGTSS)とpremonitory urge for tics scale(PUTS)
COLUMN 溶連菌感染に伴う小児自己免疫性神経精神疾患(PANDAS)
◉診療アルゴリズム・フロー
第2章 推奨
CQ1 小児チック症として妥当な症状は何か?
CQ2 どの時期に治療を開始することが推奨されるか?また,年齢を判断基準にすることが推奨されるか?
CQ3 小児チック症への生活指導や疾病教育は推奨されるか?
CQ4 小児チック症の環境調整は推奨されるか?
CQ5 一般小児科医が初期治療として薬物治療(を行うこと)が推奨されるか?
ⅰ.推奨される処方内容は?
ⅱ.漢方薬は推奨されるか?
CQ6 小児チック症の治療に対する心理療法は推奨されるか?
COLUMN チック症のための包括的行動的介入(CBIT)と遠隔心理療法
CQ7 小児チック症に併存するADHDの薬物治療に何が推奨されるか?
CQ8 専門医につなぐことが推奨される時期はいつか?
CQ9 小児チック症の診断に脳波検査/画像検査は推奨されるか?
CQ10 小児チック症に伴うOCDに推奨される治療は何か?
CQ11 専門医が行う本人・家族への生活指導内容で伝えることが推奨される内容は何か?
CQ12 以下の薬剤は治療薬として推奨されるか?
・リスペリドン
・アリピプラゾール
・抗てんかん薬(トピラマート,レベチラセタム)
・極少量レボドパ療法 43
COLUMN 極少量レボドパ療法(0.5mg/kg/日)について
CQ13 小児チック症に対するハビットリバーサル(HRT),チック症のための包括的行動的介入(CBIT)および
曝露反応妨害法(ERP)は推奨されるか?
COLUMN トゥレット症に対する呼吸法について
COLUMN トゥレット症に対する歯科スプリント治療について
COLUMN トゥレット症の脳深部刺激療法(DBS)について
CQ14 内服治療の終了が推奨される時期はいつか?
◉資料:文献検索式・文献
索引
ページの先頭へ戻る
序文
発刊にあたって
日本小児神経学会は小児神経疾患の診療標準化を目指しており,2011年にガイドライン統括委員会を発足させました.本学会ではこれまでに3つのガイドライン「熱性けいれん診療ガイドライン2015」「小児急性脳症診療ガイドライン2016」および「小児けいれん重積治療ガイドライン2017」を発刊し,2023年には,それぞれ「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」「小児急性脳症診療ガイドライン2023」「小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023」として改訂しました.さらに,「小児痙縮ジストニア診療ガイドライン」も発行予定となっております.日本小児神経学会が発行する5つ目の本ガイドラインは,「チック症診療ガイドライン策定WG」によって原案が作成され,本学会員による内部評価,関連学会による外部評価,さらにMindsによるAGREEⅡ評価を経て発刊に至りました.本ガイドライン策定に尽力されました本ガイドライン策定WG委員ならびにご協力いただきました関連学会,患者団体の皆様,日本小児神経学会員の皆様には,心より感謝申し上げます.
チック症は,神経発達症に含まれ,一過性のものも含めますと子どもの5~10人に1人が経験するありふれた症状です.チックの症状は,軽症から重症まで幅広く,出現・消失・増悪・改善を繰り返すことがあります.また,多彩な運動チックと1つまたはそれ以上の音声チックを認め,チックが1年以上持続する場合,トゥレット症と呼ばれ,生活に支障をきたすことがあります.チックは子どもによくみられる症状ですが,わが国においてガイドラインは存在せず,標準的な指導や治療がなされていません.また,チック症は,他の神経発達症や精神疾患を併存することがありますので包括的な評価と治療,支援が必要です.以上のような点を鑑み,チック症の症状から鑑別,併存疾患,治療(薬物治療・心理療法・認知行動療法)を網羅するガイドラインを策定しました.
本ガイドラインで示された治療選択は画一的なものではなく,推奨は参考にすぎません.実際の治療に当たる場合,病院機能や医療環境がそれぞれ異なりますので,治療方針の決定は,主治医の総合的判断に基づいて行われるべきであることはいうまでもありません.チック症の薬物治療には,適応外使用として使われている薬剤が多数あります.本ガイドラインでも,適応外使用薬もその旨を明記したうえで紹介しています.これらの薬剤の使用には,施設ごとに倫理的配慮を含めてご検討いただきたいと思います.さらに重要な点として,本ガイドラインは医療の質の評価,医事紛争や医療訴訟などの判断基準を示すものではないため,医療裁判に本ガイドラインを用いることは認めていません.
本ガイドラインが,チック症診療に携わる一般小児科医・小児神経科医・児童精神科医,医療従事者,教育関係者,他の皆様にとって,役立つものであることを願っています.本ガイドラインをご活用いただき,皆様からのフィードバックをいただくことにより,今後の改訂に役立てて参りたいと思います.
2023年12月
日本小児神経学会
理事長 加藤 光広
ガイドライン統括委員会担当理事 前垣 義弘
ガイドライン統括委員会委員長 柏木 充
序文
チック症は,子どもの5~10人に1人が経験するありふれたものであり,比較的短期間で軽快したり,消失することも多いため,「くせ」の1つとして見逃されがちです.一方,長期間にわたって激しいチック症が続き,生活に支障をきたすこともあります.特に,運動チックと音声チックがともにみられ,チック症が長期間続く場合にトゥレット症と呼ばれ重症例も経験しますが,トゥレット症の重症度も一様ではありません.トゥレット症には様々な精神行動上の問題を併存することがあり,それによっても状態が一人ひとり異なります.トゥレット症を含めてチック症を有する人のあり方は千差万別なのです.チック症全体に共通する点は,親の育て方の問題が原因ではなく,遺伝的素因が関与しており,大脳基底核と大脳皮質をつなぐ脳内回路の機能に問題があると想定されていることです.発達の過程で本人と周囲との関係によって,チック症の表現が変化することもあります.チック症は,DSM-5の神経発達症群に含まれるようになりましたが,すでに社会的認知が進んでいる自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症などの神経発達症と比べて認知度が低く,適切な理解や対応がなされていないと思われます.また,一般小児科医と小児神経科医・児童精神科医との役割分担や連携についても明確な指針はありません.わが国におけるチック症診療のガイドラインはこれまで作成されたことはありませんでした.
このような背景から,日本小児神経学会では,ガイドライン統括委員会の指導のもと,2018年にチック症診療ガイドライン策定ワーキンググループを設置し,約4年間の歳月をかけて「小児チック症診療ガイドライン」を作成しました.本ガイドラインが,チック症診療に携わる一般小児科医・小児神経専門医・児童精神専門医の先生方,医療従事者,教育関係者のお役に立つことを祈念いたします.
2023年12月
日本小児神経学会
チック症診療ガイドライン策定ワーキンググループ委員長 山下 裕史朗