災害時の子どもへの支援3 子どものこころの応急手当て子どもたちの遊びを見守ることが大切で,遊びがよい結果で終われるように導いていくことが望ましいといわれています.災害ごっこのほかにも,子どもは遊びをとおしてさまざまな感情や欲求を表現します.たとえば,こどもひろばで折り紙や粘土,ぬいぐるみなどを使い,避難所に持参できなかった身の回りの品や,食べたいものをつくる子どもたちを見受けたことがあります.そのほか,こどもひろばでは,子どもが好きな遊びを自分で選ぶことができます.この選ぶという行為が,避難所で制限ある生活を送る子どもにとって,自分で状況をコントロールしているという感覚を取り戻すために重要です.また,こどもひろばのルールや活動内容を子どもたち自身で決めるなど,運営にかかわる機会を得ることで,子どもの自己効力感を高めることへもつながります.そのため,被災地における子どもの遊びや居場所への支援は,単に子どもの遊び場をつくるだけでなく,子どもの心身の健全な発達と情緒の安定を支援するものであり,長期的にみてもその意義は大きいといえます.2022 年 4 月に改定された内閣府の「避難所運営ガイドライン」で,災害が発生した場合,避難所には「キッズスペース(子供の遊び場)の設置を検討する」と明示されています(同ガイドライン p.43)2).また,2023 年 12 月に閣議決定された「こどもの居場所づくりに関する指針」でも,避難所における子どもの居場所づくりは,こころの回復の観点からも重要であると明記されています(同指針 p.11)3).東日本大震災以降,避難所における子どもの遊び場や居場所の重要性の理解は進んでいますが,努力義務の取り組みにとどまっています 2).避難所での子どもたちの遊び場や居場所支援は,被災した子どものレジリエンスを支える基盤となる取り組みであるため,こども家庭庁においても十分に議論されることが期待されます.非日常的な状況下でストレスを抱える子どもに対する心理社会的支援の取り組みは,すでに医療現場でも行われています.たとえば,米国やわが国のいくつかの病院では,子どもの発達や心理に精通したチャイルド・ライフ・スペシャリストが,小児医療チームの一員として,子どもに合わせた治療法の説明や準備,治療的遊びの提供など心理社会的支援を行っています.その結果,子どもが治療に協力的になり,入院期間の短縮や鎮痛剤の使用の減少といった効果が報告されています 4).しかし,災害時には被災する子どもの数が多く,専門家だけで子どもを支援することは不可能です.だからこそ,危機的な状況下で子どもたちが示す一般的な反応や行動を子どもの親や保護者,保育士や教員などの子どもの身近な大人,そして災害支援者が認識し,子どもたちのストレス対処のプロセスを妨げないような支援方法を知ってもらうことが必要です.このような支援のポイントがまとめられているのが,「心理的応急処置(Psychological First Aid:PFA)」です(図 3).109心理的応急処置3
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