寝返り定型発達児では,ATNRが左側にも右側にも出現します.しかし,もしATNRが片側にしか現れないようなら,その赤ちゃんはある種の持続的な非対称性をもっています(詳細はChapter2を参照のこと).仰向けに寝ている赤ちゃんの頭がどちらかに回転するときに引き出される反射で,剣士反応ともよばれます49図5-4 非対称性緊張性頸反射(ATNR)ち上げ,踵と頭で身体を支えて「ブリッジ」をします(図5-3B).伸ばされた腕は右側(もう一度言いますが,顔が向いている方向とは反対)に身体を回転させるためのてこになります(図5-3C).このように,空中で腕が弧を描きながら頭と腕を同時に回転させます.腹這いになった赤ちゃんは,通常の寝返りの最終姿勢である胸部を腕で支えた姿勢ではなく,脇の横に腕を伸ばした姿勢になります(図5-3D). ブリッジ寝返りは,前述したような定型発達児の寝返りとはまったく異なります.四肢でバランスをとりハイハイのための準備姿勢を整えるのではなく,依然として地面に横たわっている状態です.これはハイハイへの移行を妨げ,獲得したスキルの上にさらに次のスキルを築きあげていくという運動発達の階段を崩壊させます. ブリッジ寝返りに対する説明の一つに,抑制されない反射(消失すべき時期に消失しなかった反射)によって赤ちゃんの寝返りをうつ動きが妨害されているということがあげられます.この場合,問題となる反射はChapter 3で述べた非対称性緊張性頸反射(Asymmetric Tonic Neck Reflex:ATNR)です.これは生下時にみられる反射で,定型発達児では生後4~6か月で抑制されます(完全に消失します).仰向けで寝ている赤ちゃんが頭を一方へ向けたときにATNRは出現します.頭が向けられたのと同じ側の腕と足はまっすぐに伸びているのに対して,反対側の腕は後頭部あたりに持ち上げられ,まるで前方を突く剣士のような姿勢をとります(図5-4).頭と眼と伸ばされた手はつながっており,赤ちゃんが手を凝視しているようにみえます.ベビーベッドの中でこの独特の姿勢で寝ている赤ちゃんを見たことがあるでしょう.ATNRに特徴的なこの伸ばされた腕と凝視している眼は明らかにブリッジ寝返りの際にみられるもので,ATNRがまだある5
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