8-2 遺伝性ジストニアジストニアの分類1 ジストニアを一症候として示す疾患は多岐にわたるが,本章では遺伝性があり,ジストニアを主症候とし,かつ他の神経変性疾患に属さない疾患群を遺伝性ジストニアと呼ぶ. 遺伝性ジストニアの一部では遺伝子座/原因遺伝子が同定されており,DYTという接頭辞と番号の組み合わせからなるシンボルが与えられている(DYT1,DYT2,DYT3など).これらをまとめて慣習的に「DYTジストニア(DYTシリーズ)」と呼び,原因遺伝子は24個同定されている(表5).なお,近年では「DYT+番号」の組み合わせは避けられる傾向にあり,「DYT-TOR1A」などDYTと遺伝子名を組み合わせたシンボルが用いられるようになっている.さらに,例えば発作性なら「PxMD-」,ジストニア・パーキンソニズムであれば「DYT/PARK-」など,臨床型をより正確に反映する命名システムも導入されている1). ジストニアは随伴症状に基づいて,孤立性(isolated:ジストニアのみを示す),複合性(combined:ミオクローヌスなどの他の運動障害を合併)に分類される.また,身体を頭部上半域,頭部下半域,頸部,喉頭,体幹,上肢,下肢の7部位に区分したうえで局所性,分節性,多巣性,片側性,全身性に分類され,発症年齢や経過(発作性,日内変動性など)でも分類される2).DYTジストニアの多くは20歳代までに発症するため,まずは若年発症がそれを考慮するきっかけとなる.さらに,随伴症状(運動症候,他の神経/全身症候)と身体におけるジストニアの分布はDYTジストニアの病型鑑別にあたり重要な情報となる.一部の病型では頭部MRIや髄液検査で特異的異常を認め,病型診断の手がかりにできる.なお,DYTジストニアはしばしば進行性の経過をたどり,発症年齢が若いほど罹患部位が広範化する傾向を認める.またしばしば同じバリアントを有する患者間でも症状が大きく異なり,常染色体顕性遺伝形式をとる病型のほとんどが不完全浸透を示す. 本項ではDYTジストニアの各病型について,臨床症状を中心に,歴史,遺伝学的特徴,分子病態にも触れながら紹介する.各病型は,①孤立性ジストニア,②複合性ジストニア,③複雑性ジストニア(運動症候以外の神経症候や全身症候を伴うもの),④発作性ジストニアの4つに分類した.2013年のジストニアの分類に関するコンセンサスレポート2)では複雑性ジストニアの分類は使用されていないが,患者の全体像を即座に想起できるメリットを重視し3)本章では使用した.なお,2013年の分類を用いたとしても,例えばDYT-KMT2Bであれば孤立性,複合性のどちらのパターンもとりうるなど,個々の症例レベルにおいて正確に分類することは難しい.終わりの部分でDYTジストニア以外の様々な遺伝性疾患に伴うジストニアについても少し触れているが,詳細については引用文献を参照いただきたい.DYTジストニア2孤立性ジストニア(isolated dystonia)a 次の病型は,典型的には孤立性ジストニア(運動症候としてジストニアのみを呈する.しかし振戦は伴ってもよい.)としてみられるが,ミオクローヌスやコレア(舞踏運動)など他の運動症候を伴うこともある.1.DYT1(DYT-TOR1A)(動画6-30,47,48) ジストニアの「プロトタイプ」とされる病型である.1911年にOppenheimがジストニア(dystonia)という言葉を初めて用いた4)後,1919年までにはMendelが捻転ジストニア(torsion dystonia)という言葉を提唱し,この時点ですでにユダヤ人の患者が多いことを記載している5).1944年にはHertzが多数例の検討を通してジストニアの疾患概念を確立した6).遺伝性の要素は重要視されな126第1部 不随意運動
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