チック(tic)は単一筋または複数の筋群に起こる短時間の,素早い,反復する,無目的にみえる常同的な運動と定義されている1).しかしながら,この定義に従って臨床診断しようとすると,舞踏症やミオクローヌスなど他の素早い反復する不随意運動との鑑別が困難である1). 歴史的にチックの研究はGilles de la Tourette症候群を中心に行われてきた2).1885年Gilles de la Touretteは“反響言語と汚言を伴う協調運動障害を特徴とする神経疾患の研究”で,舞踏症とは異なる新しい疾患として報告した.同様な例はすでにItard(1825年)によって報告されていたが,Touretteは自験6例を含む9例について分析し,その特徴を,①若年発症,②突然始まる迅速な運動性チックを主症状とする,③反響言語や汚言を含む不随意発声を示す,④状況・年齢によりチックの頻度,強さ,分布が変動する,⑤一生涯続く,と記載した. 1970年代以後,ShapiroらによりGilles de la Tourette症候群は,小児期に一過性に出現するチックと同一線上にあるチック障害(tic disorder)の一つと解釈されるようになった3-7).近年,ICD-11あるいはDSM-VにおいてShapiroの分類を修正し,チック障害を①Tourette症,②持続性(慢性)運動または音声チック症,③暫定的チック症に分類している(表1).診断,分類1重症度a チックの重症度には著しい幅がある.チック障害は,約10人の小児に1人(有病率5〜24 %)が,一時的にチックを呈するという比較的軽症で正常に近い症状を指す.Gilles de la Tourette症候群はまれな疾患であり(有病率1〜5人/10万人),慢性化し,神経行動学的に問題になる障害を指す8).これらの疾患が異なった病態であるのか,同じ病態の両端なのかについては議論のあるところではあるが,多くの専門家は同じ病態である可能性が高いと考えている.分 類b チックは通常,運動性チック(motor tic),音声チック(vocal tic)に分けられる.また,チックの性状により単純性チック(simple tic),複雑性チック(complex tic)に分けられる.さらにチックの出現の期間により暫定的チック(transient tic),持続性(慢性)チック(chronic tic)に分けられる(表2).DSM-Vでは下記のように記載されている. 単純性運動チック(動画 9-1,2)は持続時間が短く(すなわち千分の数秒間),まばたき,肩すくめ,および四肢の伸展を含んでいることがある.単純性音声チック(動画 9-4)は,咳払い,鼻鳴らし,およびうなりを含み,しばしば横隔膜や中咽動画9-4動画9-2動画9-1198チ ッ ク第11章
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