2582子どものトラウマ治療
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134134134プレイセラピーの目的子どもへの心理支援・介入の場合,プレイセラピーが選択されることが多いだろう.その背景には,子どもは大人のように自分が経験した出来事や,自分が感じていることについてことばで表現することが容易ではないこと,思い出すと苦しくて仕方がないことについて思考を介した情報処理だけでは十分に解決しないことなどがある.抽象概念獲得以前の発達段階の子どもにとって,思考や認知的な表現だけでは問題解決には結びつかず,何かしらの具体的な活動やアクションとともに情報が処理される必要がある.だからこそ,「遊び」は子どもにとって望ましいツールであり,心理療法でも「遊び」が活用されるのである.ただし,トラウマを経験した子どもに対して十分な準備なしに「遊び」を提供してしまうと,遊びの力によって子どもだけでなく,子どもにかかわる大人たちも深く傷つけることになりかねない.トラウマを経験した子どもとの遊びを展開する前には,しっかりとした準備が必要になる.だからこそ,子どもだけでなく,支援者・治療者側の準備性も問われるのである.トラウマを経験した子どもに対するナラティブ・プレイセラピーを行うその目的は,子どもが経験した出来事に対する理解を正常化し,その出来事によって生じたこころの傷つきを,ストーリー性のある遊びを通して消化し,子どもが自らその出来事に対する新しい意味づけを行うことでその出来事に対する苦しみを消化・昇華させることにある.私たちがプレイセラピーを行うときに忘れてはいけないことは,相手が子どもであること,そして彼らが成長・発達の途中でトラウマティックな経験をしているという事実である.だからこそ,その出来事によって子どもの感覚と,物事に対する認識のどの部分が歪められた可能性があるのかを理解する必要があり,その部分をいかにノーマライズしていくかが重要になってくる.それには,治療者側のトラウマインフォームドな視点が必須であり,子どもに対して行われるトラウマ心理教育は,遊びのなかで生きた情報として子どもに提供される必要がある.子どものトラウマに対する ナラティブ・プレイセラピー子どものトラウマにおける治療と最新情報を知るI第3章POINTプレイセラピーにはトラウマインフォームドな視点が必要である.子どもが安心して自分自身を表現するために,プレイセラピーの枠組みと環境設定が大事である.遊びのなかで子どもが経験したことを表現することで(治療的な遊び),トラウマのもととなった出来事を処理することができる.

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