135I 子どものトラウマに対するナラティブ・プレイセラピー135プレイセラピーの歴史的背景と発展プレイセラピーは,社会からみた子どもの歴史とともに発展してきたように思える.アンナ・フロイトや,メラニー・クラインらによって子どもが治療対象となるアプローチが生まれ,「遊び」を子どもの心理療法に用いることがはじまった.その後,アクスラインの子ども中心療法や,多くのプレイセラピーの臨床家たちの活動を通してプレイセラピーのさまざまなアプローチが生まれている.子どものペースに合わせていく子ども中心療法 1, 2)は,今日のプレイセラピストたちのベースとして根づいている.子ども中心療法が機能するときには,子どもの「変わりたい,成長したい」という強い動機が内面に存在している場合が多い.しかし,もし,子どもが思い出したくないことを思い出さないように日々努力しているにもかかわらず,フラッシュバックに悩まされていたり,自責感や,自分自身を否定するような精神状態にある場合,子ども中心療法で活性化されるであろう内的変容のエネルギーに対して,子どもの資源がかなり不足していることは明らかである.認知行動療法を子どもに応用したプレイセラピーでは,ネル 3)の認知行動プレイセラピーがある.不安の高さや情緒面に問題がある低年齢の子どもなどに,人形を使ったロールプレイ,行動のモデル化,脱感作などを通して行動変容をもたらす.この場合,治療は曝露をベースに進められ,子どもは治療者の提案に従い,遊びながら問題となっている行動についてアプローチしていく.先述のアクスラインのやり方とは異なり,治療者による直接的な指示や介入を通して子どもが自分をコントロールすることを学んでいく.ネルの認知行動プレイセラピーは,日本ではあまり知られていないが,日本の多くの認知行動療法家たちが子どもにアプローチする際,CBTの基本に沿って実践していると思われるため,ネルが行っているものとほぼ同様のことが行われているのではないかと推測する.トラウマのある子どもへの治療効果が認められているTF-CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法) 4)は,一人の治療者が子どもと,子どものトラウマに関与していない養育者に対し,それぞれ個別にセッションを行い,楽しい雰囲気のなかで遊びを用いながら養育者と子どもを対象とした治療を提供している(詳細は,本章C TF-CBT〈p.92-98〉に記載).TF-CBTでは,子どもの遊びはセラピーがスムーズに進むためのツールいわば“Play for therapy”としての活用であり,子どもが遊びを通して自身の内面を活性化させるような「治療的な意味をもつ遊び」を展開することや,遊びが治療の主軸を担うわけではない.では,子どもが自分の内的な事象を遊びで処理したいと思うとき,どんなアプローチがあるのだろうか.トラウマを経験した子どもとのプレイセラピー環境設定何かしらの理由があってプレイセラピーをすることになっていることを,子どもが理解しているからこそ,プレイセラピーで子どもが「目的をもって遊ぶ」のである.なぜ遊んでいるのか,なぜここにきているのかわからない状況では,子どもは安心して子どものトラウマにおける治療と最新情報を知る第3章
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