第3章重要なクリニカルクエスチョンCQ6 PM/DMの診療に筋電図検査は有用か?25推奨度1同意度8.5針筋電図は筋炎の活動性評価,病態の評価に有用であり,筋生検の適応や部位を考えるのにも役立つため,施行することを推奨する. 広義の筋電図は神経伝導検査と針筋電図に分けられる.神経伝導検査はたとえば母指球に表面電極を置いて,正中神経を手首や肘で刺激して出現する筋の電位〔これを複合活動電位(compound muscle action potential:CMAP)とよぶ〕を計測する.神経に十分な刺激(最大上刺激)を加えてもCMAPの振幅が小さいときには筋線維の数が減少していることを意味する.筋線維の数が減る原因としては筋線維そのものの変性(筋ジストロフィーなど)と神経軸索の減少の2つの可能性がある.運動ニューロン疾患やニューロパチーでは軸索が消失する結果,その支配領域の筋線維が変性する.初期の筋炎ではCMAPが小さくなることは少なく神経伝導検査での異常検出感度は高くない.ただし末梢神経疾患との鑑別が必要なときには神経伝導検査は有用である.針筋電図は針の形をした細い電極を直接筋に挿入して,筋線維に生じる活動電位を計測する検査で,記録面積が小さいために電極に近接する個々の筋線維の活動電位のみを記録することができる.検査ではまず針を挿入して刺入時および安静時の状態をみたあと,力を少し入れたときの電位変化をみていく.画面上での波形確認と同時にスピーカーから波形を音としても聴きながら検査を進める.正常の場合安静時には筋線維は弛緩しており電位変化(活動電位)は記録されない.少し力を入れるとゆらぎをもった5~10 Hz程度の比較的規則的な放電パターンを示しながら運動単位電位(motor unit potential:MUP)が出現する.運動単位とは1つの脊髄の運動ニューロンが支配する筋線維の集団のことで,1本の軸索は筋内で多数に枝分かれして終板を介して数十本から数百本の筋線維と接合している.MUPは針電極近辺(おおよそ1 mm以内)にある個々の筋線維が生じる活動電位の総和を記録したものである(図6-1).力を入れていくことによりMUPが画面上に多数出現してくる.これをMUPの動員(recruitment)とよぶ.力を入れるために多数の運動単位の動員が必要となるためである.詳しくはCQ7で述べるが,炎症性のミオパチーでは大きくいって2つの変化がみられる.1つは安静時のfibrillation potential(Fib)とpositive sharp wave(PSW)で,もう1つはMUPの形態の異常,動員の異常である.Fib/PSWは筋と神経の接合が途絶えたときに,筋線維膜が不安定になり自律的周期的な放電を生じるものである(図6-2).したがって,炎症の強い時期に出現しやすく筋炎の活動性を示している.MUPの形態の変化は各運動単位に属する筋線維変性の程度を反映しており,発症から時間が経過するほどより顕著となる.針筋電図は筋炎の診断と病態を知るうえで欠くことのできない検査であり,また筋生検の適応や部位を考えるうえでも重要である.現在は画像診断(筋超音波検査やMRI)と併用することより精度の高い検査が可能となっている.推奨解説
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