2618結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドライン2025
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第2章 疾患の概念と疫学・病態19疫学TSCの発生頻度は海外の文献では人種差がなく,6,000人に1人とされる 5).日本の鳥取県米子市での調査においては39歳以下では7,000人に1人であり 6),海外と同程度と推測される.TSC1/TSC2遺伝子とmTOR蛋白遺伝形式は常染色体顕性遺伝であるが,患者の2/3〜3/4は孤発例である.遺伝子はha-martin(TSC1)をコードするTSC1遺伝子(9q34)とtuberin(TSC2)をコードするTSC2遺伝子(遺伝子座16p13.3)の2つが知られている 7〜11).TSC1遺伝子は23エクソン,TSC2遺伝子は41エクソンからなる,ともに大きな遺伝子である 8, 9).hamartinとtuberinは複合体(TSC複合体)を形成し,この複合体がRhebを介してmTORを制御する 11).mTORは細胞増殖,細胞分裂,細胞の大きさを制御している.TSCでは,TSC1遺伝子,TSC2遺伝子のいずれかの機能喪失型バリアントが発生することでmTORが活性化して,過剰な蛋白合成や細胞増殖,細胞分裂を促すことで発症する 7, 10, 11).バリアントの形式としては,1塩基バリアントから大きな欠失まであり,病的バリアントに関するホットスポットとなる明らかな部位はない.日本ではTSCにおけるTSC1遺伝子由来の比率が欧米に比べて高く,日本はTSC1:TSC2 = 1:2.2であるが 7),欧米は1:5.5である 7, 10).TSC1遺伝子由来の患者はTSC2遺伝子由来に比べ中枢神経症状が軽い.臨床的確定診断をした患者において病的バリアントが同定されないことも多くあり 7),体細胞モザイクやイントロンバリアントなどの症例も存在する.臨床症状TSCは全身の臓器に過誤組織/過誤腫が発生することにより生じる疾患である.出現する臓器は代表的なものが脳,眼,皮膚,心臓,腎臓,肺,口腔,歯であるが,それ以外にも肝臓,膵臓,腸管,副腎,甲状腺,卵巣,精巣,骨,大血管に及ぶ 1).もう1つの大きな特徴は,年齢に応じてこれら臓器ごとの病変や症状が出現する時期が異なることである 1, 10).胎児・新生児期は心横紋筋腫,乳児期はてんかん(特に乳児てんかん性スパズム症候群:IESS)や脱色素斑,幼児期から学童期はてんかん(特に焦点てんかん),顔面血管線維腫,思春期からは腎血管筋脂肪腫,上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA),成人期からは女性は肺リンパ脈管平滑筋腫が発症および問題になりやすい.またTSC関連神経精神症状(TAND)として知的発達症,神経発達症(自閉スペクトラム症〈ASD〉,注意欠如多動症〈ADHD〉,限局性学習症),精神障害(うつ病や不安症等)が起こりうる.神経発達症は幼児期以後,精神障害は思春期以後に問題になりやすい.

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